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第83話 文化祭2日目 -4【藤堂】

 とうとうこの日がきてしまった。  口にするのもオゾマシイ日。  生きるか死ぬかの瀬戸際。  文化祭二日目、ミスコン当日。  朝一で登校したオレは、教室へは向かわずそのまま適当な隠れ場所を探し歩いていた。  本当は学校なんか休んで家に引き篭もっていたかったのに、よりによってあの(とおる)がこのミスコンに乗り気で、家になんて居られない状況になっていたから。  引き摺られるようにして学校に連れて来られてしまった。  こんな事なら、前もって隠れられそうな場所を物色しておくんだった。  なんて、今更後悔してももう遅い。  んな暇があったら、さっさと良さそうな場所を探さないとな。  隠れてやる。  絶対に逃げきってみせる。  そしてバックレる!  何が「優勝候補」だっ。  こんな事で優勝しても嬉しくも何ともねぇし。  むしろ汚点だ。  人生最大の汚点!  そんなもの残してたまるかっ。  人気のない校舎裏の使い捨てられたベニヤ板の影を、本日の待機場所に選んだ。  ここなら人なんて滅多に来ないだろうし、来たとしても板の間に逃げ込んでやり過ごせる。  とは言え、ずっとここにいるのは危険だから、何時間かしたらまた別の場所を探さないと。  でも、他にいい場所なんてあるかなぁ……なんて一息ついていた所で、とんでもない災難に見舞われるコトとなる。 「彼織ちゃん、見ーっけ♪」  背後から不吉な声がして、ビクリと身体が震えた。  ヤバイ。  見つかってしまった。  誰だ?  オレを見つけやがったのはどこの誰だ!?  と、振り向くと、そこには見慣れすぎた顔が。 「利っ!?」  驚いて上げた声は悲鳴に近かった。  よりによってこいつかよっ。  驚きは、次の瞬間には諦めに変わっていた。 「何やってんだよ、こんな所で」  一応は笑顔の利だけど、その笑顔が曲者なんだって。  こいつの隙を見つけて逃げるなんて、まさに決死の脱出だよ。  そういう危険なコトは出来るだけしたくない。 「隠れてんだよ」  てか、こいつ、オレが隠れ回ってんの知っていて、わざとそういうコト訊いてくるし。 「誰から」 「クラスの奴らから」  かくれんぼの鬼の数が多すぎていちいち名指しできない。  でも、中でも筆頭は瀬口だけどな。  個人名なんて言っても仕方ないからわざわざ言わないけど。 「へぇ」  こいつ、物凄く不敵な笑みを浮かべやがった。  しかも楽しそうに。  何企んでんだよ、ホントに。 「……何だよ」  笑顔があまりにも気持ち悪いから、やや逃げ腰になってしまう。  マジ逃げてぇ。  オレが警戒しているのを承知の上で、更に追い討ちをかけるように訊いてくる。 「俺は?」  腕組みをした尊大な態度と、不敵で見下したような表情。  言われなくても、お前からも逃げてんだよ。 「利からも!」  ヤケになって叫んだオレのセリフを聞くなり、待ってましたとばかりに利の身体が動き出した。  伸びてきた腕にグイッと引っ張られて、前のめりに利に倒れこんだ。 「うわっ……!」 「それは残念だったな」  脚が宙に浮かんだと思った時には、既に抱きかかえられていた。 「急いで準備しないと間に合わないぞ、彼織ちゃん」 「離せーっ!」  暴れるオレなんて全くお構いなしに、問答無用で歩き出した利を止められる人間は、生憎その場には誰一人としていなかった。  ……って、きっと誰がいても止めてくれなかったと思う。  世界中が敵の気分だ。 □ □ □  だから嫌だったんだ。  こんな格好させられるって分かっていたから、だから逃げまわっていたのに。  結局逃げ切れずに、オレは着せ替え人形かっ! ってカンジで無理やり脱がされて、着せられたのは真っ白いワンピース。  白っていうのは前に見せられたから知ってはいたけど、形はさっき初めて知った。  後ろにでかいリボンがあって、裾は膝丈より少し長め。  やたらとフワフワしたスカートで、動くたびに大袈裟に靡いてしまう。  ファスナーが背中にあるから、一度着せられてしまうと一人じゃ脱げない仕様になっていてムカツク。  手はなんとか届くのに、見えない上に後ろにあるからうまく外せない。  こんな面倒なもの、一体誰が考えたんだよっ。  一生恨んでやる。  もう一つ、いつもと勝手が違うのが髪。  ヅラ(何か他に名称があるらしいけど、こんなのそれで十分だ)を乗せられて、有り得ないくらい髪が長くなった。  自分じゃ見えないけど、どうやら背中くらいまでの長さがあるヅラらしい。  あと、「いらねぇ」って言ったのに無理やり化粧とかされて、顔に違和感。  白い靴履かせられて、オプションで日傘って、なんだそりゃ。  出来上がったオレを待っていたのは、散々人を追い掛け回してくれた瀬口だった。  実行委員だかなんだか知らないけど、友達だと思っていたのに裏切り者め。 「藤堂」  おまけに、瞬きもしないでじっとこっちを見てやがる。 「……何だよ」  いつもと違う格好をさせられているから、凝視されるのにかなりの抵抗があって、口調が「こっち 見んな」くらいの勢いになってしまう。 「お前、すっげぇ夏のお嬢さん」 「何だそりゃ!! つーか、うるせぇ。黙ってろっ!」  あまりにも真顔で言うから、ついカッとなって怒鳴ってしまう。  それに今は秋だ、秋!  もっと季節感を考えろっつーの。 「でも、マジ可愛いよ」  しみじみと言われても、余計にムカツクだけ。  来年覚えてろよ、このヤロウ。 「嬉しくねぇ」 「だろーな」  今更同情するような眼差しを向けても遅いっての。  これだけ着せられて、周りをがっちり固められたらもう逃げられないし。  自分を捨てて、死んだ気になって遣り遂げるしか道はなさそうだね。  あーあ……。  大きな溜め息を一つ吐いて、それでもう自分の男としての尊厳はきっぱり諦めるコトにした。

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