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第84話 文化祭2日目 -5

 ミスコン出場を嫌がって逃げまくっていた藤堂を捕まえてきてくれたのは、なんと弓月さんだった。  当の藤堂を余所に、かーなりノリ気な弓月さんは藤堂が逃げないようにと、見張り役まで買って出てくれた。  そのノリ気がいっそ不気味で、誰も逆らえない(もともと逆らう奴なんていなかったけど)。  あんなに頑なに拒んでいたのに、弓月さんに捕獲されてきた藤堂は、まるで観念したように大人しくミスコンに出場してくれた。  相当不機嫌で無愛想だったけど。  でも、なんかもう「むしろそれがっ……!」みたいなカンジで結構ウケてたから、結果的には上出来だったと思う。  なにしろ優勝してたしな。  まぁ、するだろうとは思っていたけど、まさか本当にしちゃうんだから、さすがだよな。  これで、藤堂の来年のミスコン司会は決定だ。  卒業するまで優勝者の名札は取れないんだろーな。  気の毒だけど、ちょっと楽しい。  とか藤堂に口を滑らせたら、絶対怒鳴られるだろうけど。  藤堂の動向はかなり気になっていて、もしかしたら出てこないんじゃないかって心配していたから これはこれで一安心なんだけど、オレ個人としてはもっと気になることが…。  塚本は、どこにいるんだろう。  もう午後だぞ。  もうすぐ文化祭終わっちゃうんだぞ。  それなのに、今日はまだ一回も姿を見てないってどういう事だよ。  今日は学校に来てないのか?  それとも、飽きてもう帰っちゃったとか?  ちゃんと約束しとけばよかったよな。  もしかしたら、もう今日は会えないかもしれない。  後で家まで行ってみるか。 □ □ □  ミスコン終了後、藤堂を労いに控え室に顔を出すことにした。  中を覗いてみると、一番に森谷と目が合ったから、何となく側まで行ってみた。 「なんとか捕まってよかったよな」  オレが近くまで来るのを待って、ほっと胸を撫で下ろすように森谷が言った。 「藤堂?」 「他に誰がいるんだよ」  ボケに取られて苦笑されたら、「塚本の事を考えていました」なんて言えない。  おまけに森谷だし。  本気かどうかは微妙だけど、オレのこと「好き」とか言ってくるし。  オレが言うのも何だけど、変な奴だよな森谷って。 「ホントにな。見つからなかったらどうしようかと思ったよ」  思考を藤堂に戻してそう言ってヘラリと笑ってみせたら、森谷もつられたように笑った。 「弓月先輩に感謝だな」  ついでに、塚本も連れてきてくらないかなぁ、なんて。  口に出しては言わないけどな。 「ところで、藤堂は?」  さっきから、姿が見えなくて気になっていたんだ。  あんな格好物凄く不本意そうだったから、終わったら速攻で着替えると思ってこっちに来たのに、全く見当たらない。  辺りを見回しながら言ったオレに、森谷が少し言い難そうに口を開いた。 「弓月先輩に拉致られた」  拉致……?  ……って言はつまり。 「帰ったってことか?」 「早々に」 「あの恰好で?」  思わず訊いてしまったのは、藤堂の衣装があまりにもあまりな格好だったから。  どっからどう見ても女の子。  あそこまでどっぷり嵌ると、逆に怖いかも。  本人もかなり嫌がっていたのに、よりにもよってあの格好で帰るか?  オレが不審に思っていると、横に立っている森谷はようやく腑に落ちた、と言うように呟いた。 「弓月先輩が反対しなかった訳がやっと分ったよ」  オレもずっと気になっていたんだけど、まだ分からない。 「は?」 「確かに、アレは貴重だよな」  森谷だけ分かってズルイ、とか思っていたら、その一言で唐突に理解った気がした。  藤堂って、何があっても、もう一生二度とあんな格好しないだろうな。  今までだって絶対にしなかったんだろうし。  なんだ。  そういう事か。  弓月さんが無反応で不気味だったんだけど、分かってみればすっげぇ単純でどうでもいい理由だったんだな。  どうりで機嫌が良かった筈だよ。  弓月さん、そんなに見たかったんだ、女の子な藤堂が。  でも……。 「あれ、借り物なんだけど」  藤堂の心配はこの際置いといて、オレが気になるは藤堂の着ていた衣装だったりする。  弓月さんの機嫌が良いのはいい事なんだけど、あの衣装が無事に戻ってくるのかとても不安だ。 「買取だろーな、多分」  森谷も同じ事を考えていたらしく、諦めたような声でそう予想した。 「……だな」  ホントの所はよく分からないけど、なんとなくオレもそんな気がしていた。  とりあえず、藤堂の健闘でも祈っておいてやろうかな。

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