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第94話 その先は -3
熱い。
何も考えられないのに、誠人でいっぱいだなんて。
どうにかなりそうだ。
「恐い?」
しがみ付くオレを抱きとめながら訊いてくる。
「逃げたい」
ついつい本音が出てしまう。
本音は本音でも、本気じゃないんだけど。
「俺から?」
更に訊かれて言葉に詰まる。
訊くなよ、そんな事。
「……意地悪」
呻くように言うと、誠人は苦笑して唇を重ねてきた。
優しいけど、ゆっくり確実に深く絡めるようなキスで、オレなんか一溜まりも無い。
首筋を吸われて、脇腹を撫でられて、目眩がするくらい煽られる。
「……ん」
擽ったさに身じろぐ。
「気持ち悪かったら、言って?」
耳元に舌を這わせながらそんな事を言われて、濡れた感触に混乱する以上に「?」となる。
今まで、こいつに何かされて「気持ち悪い」なんて思った事は一度もなかった。
むしろ逆で困る事の方が多いくらいで。
「!?」
一体何の事だろう、と思った直後に、俺の胸を誠人の手が弄り始めた。
「ちょっ……あぁっ」
何をしているのデスカ、と尋ねる間もなく、反対側に舌が這う。
オレの無い胸に顔をうずめて、口と指で転がしている。
「や……っ、んん」
ただ擽ったいと思っていた一瞬前が嘘のように、耐えがたい何かが身体中に走る。
乳首を吸われるとか、捏ね繰り回されるなんて思いもしなかった。
耳とか、首筋とかはよく舐められたけど、こんな所まで舐めてくるとは。
こんな風に、丁寧に、執拗にされるのは……ちょっと。
「嫌?」
動きを止めることなく誠人が訊いてくる。
イヤだけど、嫌ではない。
それをわざわざ言わせるなよ。
本気で嫌なら、もっと暴れているって。
「……じゃ、ない」
と言うのがオレの精一杯だ。
「瀬口、可愛い」
「っ……!」
満足気にそんな世迷言を言ったかと思うと、誠人はさっきより激しく舐め上げてきた。
「やっぱ、ヤだ……ぁ……それ、やめっ」
誠人の髪を引っ張ってみるが、びくともしない。
今までは、これで離れてくれたのに。
「ま、さと」
急に怖くなって泣きそうになる。
オレの声色の変化に顔を上げた誠人は、舌なめずりをして楽しそうに笑う。
「……もう少し、味わわせて」
どこのオヤジだ、こいつはっ。
「うわっ!」
少しの油断の間に、誠人の手はオレの下半身へと伸ばされている。
握られて、撫でられて、果てしない羞恥心に晒される。
当然ながら、耳やら首やら胸やらを舐められたり弄られたりした事で反応をしてしまっている下半身の状態もバレている訳で……。
「大丈夫」
弾むような誠人の声には嫌な予感しかない。
今まで生きてきて、こんなに全く信用できない「大丈夫」は無かった。
「なっ!?」
悲鳴にも似た声を上げてしまったのは、誠人がオレのものを口に含んだからだ!
「な……やっ、ぁ」
何をしてやがるとか、止めろとか、言いたい事は上手く言葉になって出てこない。
その代わりに変な声を上げてしまうから両手で口を押えるけど、それも次第にどうでもよくなってしまう。
正直、何もかも委ねてしまいたくなるくらい気持ちが良い。
舌と指の動きに高められて、果ててしまうまでにそう時間は掛からなかった。
達した気持ち良さで放心状態になる手前で、とんでもなく重大な事に気付く。
今、オレ、誠人の口離れてなかった。
と言うことは……。
「飲……っ!!」
「ん?」
上体を起こして誠人を見ると、口元を手の甲で拭っている。
その姿に、考えるだけでも恐ろしい行為が頭を支配する。
「い、今……」
「飲んだ、けど」
恐る恐る口を開いたオレに、誠人は飄々とそう言いやがった。
信じられない。
いくらなんでも、そこまでするとは思ってなかった。
今更ながら、こいつに全てを委ねてはいけなかったと悟った。
してもらっておいて何だけど、全く「大丈夫」なんかじゃなかった。
只でさえ恥ずかしいのに、そんな事をされたら倍増だ。
「吐け!」
「もう無理だって」
狼狽えるオレとは対照的に、誠人は余裕で笑っている。
何故笑う。
あんなもの、飲んで良い筈がない。
「指突っ込んでやるから、とにかく出せ!」
飲み込んでしまったとは言え、今ならまだ間に合うだろう。
と、嘔吐させようしたオレの肩を誠人が掴む。
「どうせなら、俺が突っ込みたいかな」
「は?」
何やら不吉な事を言ったかと思ったら、くるりとオレの身体を反転して布団に倒した。
シーツが頬に当たって、視界が白く染まる。
うつ伏せの状態で、今の誠人の言葉の意味を考えようとした。
「ひっ……」
だけど、考える前に尻の間に冷たい感触が流れる。
「な、何?」
身体を捻って後ろを見ると、片手に収まるくらいの容器から、何やら液体を指に押し出している誠人が見えた。
ゾクッと背筋に何かが走った。
「なるべく、辛くないようにするから」
そう言った誠人の声は、どこか迷っているようだった。
言葉の真意を問う間もなく、濡れた指が尻の奥に触れる。
「ひゃっ……」
じわじわと入り口を探り、少しずつ中に入ってこようとしている。
ついさっきまで冷たかった部分が、熱を帯びているのが分かる。
「……っあ、うぁ」
どうにも出来ない違和感に襲われているのに、身体を動かすこともできない。
少しでも動かしてしまったら、自分の身体がどうなってしまうのか予想もつかないから怖い。
「……んんっ、ぁん」
指が増えて更にきつくなる。
あの誠人の長い指が身体の中にあって、探るように、広げるように、バラバラに動いている。
誠人に触れられているだけでもドキドキするのに、これはそれどころではない。
「ヤ、ぁ……」
「嫌だよな、ごめん」
何故か謝った誠人は、指を引き抜いて代わりに自らのものを押し当ててきた。
「っ!?」
その可能性は、もちろん考えていた。
今までの全ては、その為の前戯である事も理解している。
けど、さすがに、その場になると怖気づいてしまう。
「ちょっと、無理、かも」
ここまでやらせておいて、それはどうかと自分でも思う。
もう進むしかないし、きっと誠人にはその選択肢しかないのだろう。
「ゆっくり、するから」
「あっ、あぁっ、あっ……んん」
少しずつでも身体に入ってくる衝撃に耐えきれなくて逃れようとしても、後ろから腰を掴まれて引き戻される。
その動きで更に奥へと入ってきて、チカチカと眩暈がする。
「瀬口」
誠人の声が優しくて涙が溢れそうになった。
「瀬口、ごめん」
何故か、また謝られる。
「もう、少しだから」
全然大丈夫。
怖いのも、泣いてしまうのも、誠人が好きだからってだけ。
何をされても、大丈夫なんだよ。
だから、そんなに申し訳なさそうな声で呼ばないでくれ。
シーツを握って呻いていると、誠人の動きが少し止まったように思えた。
荒くなった息を整えようというくらいの意識が戻っている。
「あ……」
肩が擽ったいのは、誠人がそこにキスをしているから。
なぞるように吸われてビクッと震えた。
「動いても、平気?」
平気な訳がない。
今すぐそっと抜いて欲しいくらいだ。
だけど、オレが平気じゃないように、誠人も平気じゃないって知っている。
オレに気を遣っている場合じゃないだろうに。
こいつは、本当に……。
「……、と」
名を呼ぼうと口を開くけど、喉の奥に引っかかって上手く紡げない。
「好き、だ」
「……っ!」
オレには何も無いから、せめてこの気持ちだけは伝わって欲しい。
呟いた言葉がちゃんと誠人に届いたかは分からない。
けど、誠人の息を飲むような音が聞こえた気がして、少なからず伝わったのだと思った。
それも束の間で、直後に今までにない性急な動きに翻弄される。
「やっ、あっ、あぁっ……んっ」
揺さぶられ、突き上げられて、激しさに気が遠くなる。
自分がどうなってしまっているのかも分からない。
ただただ、与えられる刺激を受け入れるその行為は、誠人が達するまで続いた。
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