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第95話 その先は -4

□ □ □  乱れた呼吸の向こう側で、誠人の何とも言えないせつない表情がぼんやりと見えて、ドクンと心臓が脈打った。  何て顔してんだよ。 「このまま、寝ていいよ」  じっと見つめる視線を感じたのか、オレの髪を撫でて眠りを促す。  何もかもが優しいけど、優しすぎるその裏にさっきの表情があるのかと思うと胸が痛む。  痛いのは胸だけじゃないんだけど、痛みよりも何よりも、オレを包む温もりに酔っていた。  鼓動に抱かれて瞳を閉じる。 「ごめん」  もう少しで眠りにつくという、夢と現実の狭間からオレを引き戻す誠人の一言を聞いてしまって、フワフワとした夢から一気に覚めてしまった。  オレは顔を上げて誠人を見た。  そう言えば、最中も何度も言われたけど、何で謝ったりなんかするんだよ。  オレを見る誠人の目がいつもと違う。  優しいけど、辛そう。  何で謝られるのか分らないから、オレは何も言えない。  突然謝られても、何も謝られるような事はされてなくて混乱する。  あるとしたら……。  謝られる理由を考えて最初に突き当たったのは、一番不吉な事だった。  早速、オレを抱いてしまったことを後悔したのかもしれない。  どうしていいのか全然分からなかったし。  てか、考える余裕なんて無かったし。  何か気に入らないことをしてしまったのかも。  それとも、散々渋って期待させてた割には大した事ねぇよ、とか?  でも、だからって……。  どん底な思考のど真ん中にいたオレは、ぐい、と誠人に抱き寄せられた。  ただでさえ近くにいるのに、更に肌が密着する。  耳にキスされて、それだけの事で全身がゾクリと震えてしまう。  こういうのはもともと弱い方だったけど、今は格別。  せつな気な吐息と一緒に、誠人の囁く声が耳に触れる。 「優しくできなかった」  ……撃沈。  なんなんだよ、もう!  驚かせんなよぉ。 「お前って……」  あー、もう。  喜ぶべきか、怒るべきか、呆れるべきか。  全部が混ざって言葉が出てこない。 「お前って、ホントにバカ」  結局、嗄れた喉からやっと出てきたのはそんな一言。  だだでさえ力出ないのに、更に脱力。  これ以上、オレに体力消耗させんなよ。 「馬鹿?」  誠人は心外そうにオレのセリフを繰り返した。 「そんな事で謝られると恥かしいだろ」  まだ余韻の残る、ついさっきまでの行為がありありと浮かんできてどうしようもなくなる。 「無理させたし」  無理、なんてしてない。  していたのは誠人の方じゃないか。  謝るのはオレで、誠人は全然悪くない。 「身体、辛いだろ?」  それはまぁ、仕方ない。  本当なら、一言だって発したくないくらいだ。 「ごめん」  そうして、また謝られてしまった。  おかしいな。  今のオレってそんなに辛そうか?  身体は痛いけど、瞼を開けるとすぐそこに誠人がいて、好きな人の一番近くにいるのがオレなんだって実感できる。 「謝るなって」  そんなに申し訳なさそうな表情されたら、オレが可哀想じゃないか。  誠人が喜んでくれていなかったら、何のためにここにいるのか分からなくなるだろ。 「誠人は……気持ち良くなかったのか?」 「良かった」  即答すんな。  それはそれで恥ずかしいわ。 「それなら、いいよ」  全部お任せ状態だったオレが偉そうに言う事でもないけど。  誠人が良かったなら、それで充分だ。 「少なくとも、オレはまた抱いて欲しいって思ったから」  辛いし、恥ずかしいけど。  また拒んでしまう事もあるだろうけど。  好きな人と繋がれる気持ち良さを知ってしまったから。 「本当に?」  と、尋ねる誠人の手がオレの身体をなぞるので、慌てて一部訂正する。 「本当だけど、今じゃないから!」  絶対に聞こえている筈なのに、聞かなかった事にしてやがる。  再び深いキスから始まって、既に受け入れた身体に抵抗など無意味なのは言うまでもなかった。

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