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第97話 それもまた日常 -2
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真っ先に向かったのは、とりあえず屋上。
階段を登っていると上の方から重たい扉の閉まる音がしたので、慌てて駆け上がった。
屋上へ行く最後の踊り場に辿り着いた所で出会ってしまったのは、思っていたのは全くの別人だった。
「あれ? なっちゃん、どうしたの?」
よりによって、安達。
どうしてお前がここにいるんだよ!
突然現われたオレに驚きながらも、相変らずの軽い口調で言う。
「授業始まっちゃうよ」
「分かってます」
「あー、なるほど。授業サボって、誠人と何するつもりー?」
お前の口はそういう事しか言えないのかっ。
「自分だってサボってたくせに」
「ヤキモチ? もー、なっちゃんはカワイーなぁ」
と言いながら伸びてきた手がオレの肩を抱く。
「触らないでください」
「なっちゃんって、たまに敬語混じるわよね。遠慮しなくてもいいのに」
遠慮じゃなくて距離だ、距離。
誠人とこいつらが友達で何かにつけて顔を合わせてしまうのは仕方ないから、せめて精神的な距離くらいは保ちたいんだ。
「そう言えば、なっちゃんと初めて会ったのも屋上だったよね?」
思わず、身体がビクリと強張ってしまった。
多分、安達も気づいたのだろう。
バツが悪そうに苦笑して肩から手を離した。
「弓月も誠人も、ああいうこと嫌いなんだよね。あ、弓月の場合はちょっと違うか」
「そう、なんですか?」
「あいつの場合は、カオリちゃんが関わると完全にアウト。って言うか、弓月ってなっちゃんには優しいでしょ」
簡単に頷くほど関わりを持ってないけど、少なくとも誠人に対してよりは若干優しいのかな。
誠人に対する態度が酷すぎるように思えるんだけど、安達にもああなんだろうな。
突然蹴るとか、慣れるくらいされてるみたいだし。
「カオリちゃんとお友達だから、弓月はなっちゃんに手は出さないし、意地悪もしないんだよ」
そうだろうか?
そもそも、藤堂と友達でいる事自体に怒りは無いのかな?
とは言え、安達や仲井に比べれば、個人的な好感度は弓月さんの方が高い。
みんなが言ってる程怖い感じはしないんだよな。
「もしなっちゃんにカオリちゃんに対して下心があったら、今頃は病院のベッドを経由して転校してただろーけど」
「まさか」
「いやいや、弓月は容赦ないからね。でもまぁ、カオリちゃんのお友達ってポジションにいれば、何かあってもカオリちゃんと一緒に弓月が怒ってくれるよ」
その理屈、全く理解ができないんだけど。
「あっ、そーだ」
不意に何かを思い出したらしく、安達が少し大きな声をあげた。
何事かと思ったら、突然引っ張られて抱きつられた。
「ちょっとだけ、幸せ分けて」
「はぁ!?」
それほど強い力じゃなかったから、バタバタと暴れた程度で逃げることは出来た。
安達も本気じゃなかったみたいだし。
「何すんだよ!」
「んー、ちょっと足りなかったかなぁ」
無意味に両手を見てヘラリと笑う。
そう簡単に持っていかれて堪るかっ。
「ごめんね、なっちゃん」
立ち去り際にオレの頭に手を置こうとしたから、思いっきり振り払ってやった。
安達は特に気分を害した風でもなく(と言うか、怒ってるのはこっちだ!)、いつもの調子でヘラヘラ 笑いながら階段を降りて行った。
うぅー。
いつもの事だけど、何か腹立つ奴だよな。
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