107 / 226

第100話 3パーセントの誘惑 -1

 誠人の自室である離れに足を踏み入れて、しばし考える。  この部屋の主である誠人とは、塚本家の門を潜るまでは一緒だったが、一度母屋に寄ると言い、現在は別行動中だ。  そんな訳で、預かった鍵で玄関を開けて、先に上がらせてもらっている。  部屋の明かりを点けて、やけに広く感じる室内の入り口で立ち尽くす。  今まで無人だった室内はひんやりと冷えていた。  エアコンのスイッチを入れて、とりあえずこの空間を温めることにする。  それから、畳の部屋の中央に置かれててる卓袱台の横に座ってみた。  ……。  …………。  落ち着かない。  全く落ち着かない。  この部屋に一人でいる事もだけど、それ以上に、誠人を「待っている」というこの状態が。  「今日は最後まで」と言われて部屋にやって来た時点で、言葉通りになるのは確実だろう。  なんなら、オレも割とそういう気分ではある。  しかし!  こうして一人で待っていなければならないこの状況!  何かして待っていた方が良いのかな?  服、脱いでた方がいい?  シャワーとか勝手に使っても大丈夫か?  誠人が寝室にしている、隣の部屋にお布団……は常時敷いてあるっぽいからいいか。  だったら、居間じゃなくて寝室で待っているべき?  そもそも、誠人の言う「最後まで」がオレの考えている行為と同じなのだろうか。  違う可能性もある、よな。  あの会話の流れで言い出すのは不自然だ。  だけど、じゃあ何なのか、というと何も思いつかない。  あれこれ考えすぎて、頭が壊れそうだ。  別に初めてじゃないのに、この混乱はいつもやってくる。  初めてじゃないからこそ、誠人の表情とか、肌に触れてくる手や舌の感触とか、身体の中を蠢く刺激を思い出してしまってどうにもならない。  妙な事を考えたから、心拍数が上がって喉が渇いてきた。  何か飲んで待っていて、とか何とか言っていた気がするし、お言葉に甘えて冷蔵庫の中を漁らせて頂くことにしよう。 「……?」  あまり使われてはない台所の端に鎮座する冷蔵庫の扉を開けて、あまり馴染みの無い缶ジュースを見つけた。  冷蔵庫の中はガラガラで、基本的に飲み物しか入っていない。  ペットボトルの水と炭酸のジュース、それとその缶ジュースだ。  パッケージにはグレープフルーツのイラスト。  果肉が入っているっぽい説明が書いてあって、ちょっとおいしそう。  ただの水でも良かったんだけど、さっぱり系のジュースもいいよな。  と、冷蔵庫から取り出して、プルトップを開けて遠慮なく口を付けた。

ともだちにシェアしよう!