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第102話 3パーセントの誘惑 -3【塚本】
柔らかい髪を撫でながら唇を重ねる。
ワイシャツの裾から手を入れて肌に触れると、瀬口は擽ったそうに「フフ」と笑った。
「手、冷たい」
苦情でも、非難でもなく、ただその冷たさを楽しんでいるようだ。
「ごめん」
「へーき。誠人に触られるの、好きぃ」
唇が触れた合ったまま、嬉しそうに言う。
煽られたので、ボタンを外しシャツを肌蹴させ、思う存分触ってやることにした。
弄るように撫でまわすと、瀬口から浅い吐息が漏れ始めた。
顎から首筋、鎖骨に舌を這わせる。
「あ……っ、ん」
胸の先端を舌先で舐めると、瀬口の身体は一層震えた。
手は塚本の肩口を掴み、脚は畳の上を泳ぐように滑る。
酔っている所為で、少し敏感になっているようだ。
口はそのまま胸を味わいながら、瀬口の下腹部へと手を伸ばした。
「まっ、て」
瀬口の「待て」は、口癖のようなものだと理解していた。
つい口から出てしまう咄嗟の言葉。
勿論、本気で言われる時もあるが、そうでない時もある。
ましてや、今はこの状況だ。
本気であろうとなかろうと、待てる筈もない。
「触られるの好きって、嘘?」
「……っ」
耳元で囁くと瀬口の肩がビクリと上下した。
「ウソじゃない、けど……」
「けど?」
「……誠人は、オレに触るの嫌じゃない?」
喜々として触りまくっている人間に対して、その質問は愚問すぎる。
と、塚本は思わず笑ってしまった。
「好きだよ」
寛げたズボンから手を入れて直接握ると、瀬口は少しの抵抗を見せた。
「でも……っ」
「好きだから、触りたい」
握っていた塚本の手が上下に動きだすと、素直に身を委ねるようになる。
耳朶を舐めながら、下着をずらし空気に晒した先端を撫でる。
「ふぁ……ん、っ……あぁ」
瀬口は手で口を覆って声を殺そうしているようだが、その必要はないし、成果も出ていない。
むしろ、もっと声を出させたくなり、塚本は舐め回して敏感になった胸の突起にやんわりと歯を立てた。
「ちょっ、ヤっ、め、あっ……んんっ」
強く押さえつけるように舐めて、下を握る手にも力を入れる。
「止めない」
「……っん、ぁあ、あ」
その切なげな声が、塚本が言葉を発した吐息に反応したものなのか、それとも握られた自身を擦られた刺激になるものなのかは、きっと瀬口にも分からない。
「両方だ」と言うかもしれないが、恐らく今の瀬口にはどちらでもいい事に違いない。
追い詰めるように手を動かして、塚本の手の中で瀬口を果てさせた。
肩で息をしている瀬口が、朦朧とした瞳で塚本を見上げている。
「まさ、と?」
流れ出る白い液体を受け止めながら、微笑んで見せた。
と言うよりは、熱を帯びた瀬口の様子に顔を緩んだ、という方が正しいだろう。
「あ……っ、あ? 誠人?」
自分の置かれている状況が理解できないのか、瀬口が混乱したように塚本の腕を掴む。
それから、脱がされている自分の姿と、下半身の状態を見て更に混乱している。
一度達して、正体が戻ってきたようだ。
反応が初々しくて、塚本はつい目を細める。
「あれ? 何か、オレ……気持ち良くなって」
「うん」
「あっ、そうじゃなくてっ! ……あぁっ!」
ぼんやり状態の瀬口に説明はせずに、塚本は行為を続けた。
制服も下着も脱がした脚を抱え上げて、入り口を精液で濡れた指で触れる。
「やっ……」
ゆっくり動かしてやると、瀬口は塚本の行いに堪えるように声を殺して身体をくねらせた。
襞に潜り込ませた指を、少しずつ内部に入れていく。
浅い部分で何度か出し入れを繰り返し、ゆっくりと指の付け根まで入れ込んだ。
内側から吸い付くように包まれて、つい動きが性急になってしまう。
狭い内部を広げながら指を引き、再び入れる。
指を増やして、出し入れを繰り返す。
「はっ……ん」
掻き混ぜるように動かすと、瀬口の身体はビクビクと震える。
「酔い、醒めた?」
「う、んっ……?」
「瀬口は、酔わないと誘えないんだな」
「な、に? ……ああっ!」
内部のとある部分を引っ掻くように擦ると、瀬口は背中を大きく反らせて喘いだ。
ぐちゃりという濡れた音と、悶える瀬口の全てが扇情的で、早くそこに身を沈めてしまいたい衝動を抑えることができない。
塚本が、以前に付き合っていた人物に靡くのではないか、と気に病む様子はもどかしくてこそばゆい。
その場で抱き締めて、そんな事は絶対にありえないと伝えてもよかったのだが、それだけでは抑えきれない確信があった。
この溢れるほどの想いを、その身体に注ぎたいという焦燥。
瀬口にしか抱かないこの感情を、言葉で説明しようとするのは諦めることにした。
「まさとぉ……」
塚本の不穏な空気を察したのか、瀬口が弱々しく名を呼んだ。
それが合図だったように、塚本は瀬口の中から指を抜いた。
「なるべく、すぐに済ませるから」
「……え?」
未だに状況が掴めていない様子の瀬口が、一瞬怪訝な表情を見せた。
予期せず酔ってしまい、少し醒めたと思ったらこんな最中だったなんて、瀬口にすれば不本意だろう。
しかし、ここで止める事はできない。
男としての本能が、それを許さない。
ならば、少しでも瀬口の負担が少ないように、とできるがどうかもわからない努力をするしか道はないのだ。
「ちょっと待っ、あっ……」
瀬口の両足を抱えて、ついさっきまで指で解していた場所へ、今度は興奮した状態の自身の先端を当てた。
「……ぁ、んんっ」
押し付けて、呑み込ませていく。
瀬口の中は狭く、異物を押し返すようでもあり、歓迎して絡みついてくるようでもある。
抑えようとして抑えきれていない、瀬口の恥じらうような甘い声も心地良い。
全部収めて、一息つくように瀬口の様子を窺う。
「う……っ、ぁ」
苦しそうに息をしている姿を見てしまうと、申し訳ないと思う反面、やけに魅力的で更に熱が集中してしまう。
「……まさと」
瀬口の手が彷徨うように伸ばされた。
その手を取って、指を絡めるように握る。
「嫌じゃ、ないから」
整わない呼吸の中、瀬口は小さな声で言葉を紡ぐ。
「嫌って、言っちゃうけど、本当に嫌なんじゃない、から」
熱っぽい瞳は少し潤んでいて、その目で見つめられると暴走してしまう危うさがあった。
そして何より、瀬口の言う内容がとても危うい。
「誠人と……するの、ヤじゃないから……ぁっ」
体内の塚本を気にしつつ、瀬口は更に続ける。
「す、すぐに、済ませるとか、言うなっ。結構、傷つくだろ」
非難するようでいて、呆れたような、悲しむような感情が顔に出ている。
絡めた指ごと手を強く握られると、同時に内部も狭くなり、痺れるように締め付けられた。
気遣うつもりで発した言葉が、瀬口を傷つけていたとは思いもよらなかった。
確かに、「済ませる」は表現として良くなかったと反省する。
と同時に、瀬口にとって塚本との行為が嫌ではない、という言質を取れた事に密かに喜んでいた。
「無理、してない?」
「……してる」
瀬口は、塚本の問いに素直にそう言って、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「でも……お前も、無理してるだろ」
浅く息を吐いて瀬口が瞼を閉じた。
少し間を空けてから、開けられた瞳が塚本を捉えた。
こんな状況だというのに、とても穏やかな瞳だった。
「好きに、して……いいよ」
そう言って微笑んだ瀬口の誘惑に負けたのは言うまでも無かった。
本当は、「すぐ」になんて「済ませ」たくない。
できることなら、ずっと瀬口を抱いていたい。
そんな塚本の望みを酌んでくれようとする瀬口に対する想いがまた深まって、胸の高鳴りがそのまま下半身に影響してしまう。
それでも、最初はゆっくりと動いた。
瀬口は喉を反らせて、その動きに耐えている。
そんな姿も、塚本を興奮させる材料だと気付いてはいないのだろう。
出し挿れを繰り返すうち、それは激しくなっていく。
「んっ……あっ、ぁあ」
脳に響くような瀬口の嬌声がもっと聞きたくて、何度も追い上げる。
壊れてしまわないよう大切にしてきたというのに、身体を繋げると求めることに夢中になってしまい、瀬口を気遣う余裕がなくなってしまう。
せめてもの救いは、瀬口も塚本を求めてくれているということだ。
恐れも、嫌悪感もなく、ただただ甘く喘ぎながら、時折塚本の名を口にする。
塚本はそれが堪らなく好きで、より深く突き上げて応えた。
そして、快楽を共有できる喜びに全身を震わせ、愛しいその身体を力いっぱい抱き締めるのだった。
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