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第103話 3パーセントの誘惑 -4

 勢いよく降り注ぐ温めのシャワーに頭を突っ込んで、大きなため息を吐いた。  本当なら冷水が正解なのだろうけど、そんな事をして風邪でも引いてしまったらそれこそ大迷惑なので止めた。  只今、塚本誠人家の風呂場で猛省中。  記憶は、ある。  おぼろげだけど、甘くて苦い飲み物だった。  体が熱くなってきて、エアコン効き過ぎたのかもと思いながらブレザーを脱いだ。  ついでにセーターも脱いで、少し涼しくなったら気持ち良くなってウトウトしてきて。  誠人が帰ってきた辺りは夢を見ている気分だった。  現実感がなくて、フワフワした感じで、何だか楽しくなって。  そして……。  ……また、迷惑を掛けてしまった。  どうしてオレは、いつもこうなんだろう。  いや、「いつも」って程、いつもじゃないけど。  自分から言い出しておきながら、「好きにしていいよ」なんて抜かすオレって何様だよっ。  そもそも、どうして高校生しか使っていない冷蔵庫に酒が入っているんだよ。  気を付けようがないだろ。  後で見たらパッケージに「これはお酒です」って書いてあったけど、気にもしていない事を書かれていても目に入らないし。  というのは逆ギレか?  やっぱりオレが悪いのか?  オレの不注意という事になるのか?  そーだよな。  オレが悪いんだよな。  人様の家の冷蔵庫を勝手に開けて中の物を飲むなんて、もう絶対に二度としない。  そしてこの先、酒を口にするような機会があっても、誠人に迷惑がかからない程度に留めよう。 「瀬口?」 「うわぁぁっ」  風呂場のドアの向こうから声を掛けられて、思わず悲鳴のような声を上げてしまった。 「逆上せてない?」 「全然大丈夫!」  心配してくれる誠人の言葉に慌てて応えた。  滝行のようにシャワーに打たれていただけだから。  それも、もう終わりにしようとカランを回してお湯を止めた。  と、ほぼ同時に、ドアの開く気配がした。 「本当に大丈夫?」  隙間から顔を出した誠人と目が合う。  オレの裸なんて大したものではないのだろうけど、こちらとしては恥ずかしいのであまり見ないで欲しい。  今更だけどな。 「……もう、上がるから」  濡れた髪からボタボタと落ちる滴を気にしつつ、やけに響く声でそう言った。  反省で頭がいっぱいで、人の家の風呂だという事をすっかり忘れて長々と滝行もどきをしてしまった。  これもまた反省材料だな。 「ゆっくりでいいよ」  そう言って誠人が笑う。  何か……機嫌良くないか? 「あのさ」  声を掛けると、閉まりかけていたドアが再び遠慮がちに開いた。 「色々と、迷惑掛けてごめん」  風呂の中から言うことじゃないけど、猛省の仕上げに本人に謝罪をした。  酔っ払いに付き合わせて申し訳ない、と。 「別に、迷惑とは思っていない」  そして、やっぱりいつもより機嫌の良い誠人の声。  こいつがオレに甘すぎるのはいつもの事としても、なんかちょっと…。 「……じゃ、良かったんだ?」  拗ねたような言い方になってしまった。  酔っ払いのオレの方が、塚本にとっては面倒じゃなくていいよな、という結論に至ってしまったから。  普段のオレだったら拒むような場面でも、酔っていたらノリノリだもんな。  文化祭の打ち上げの記憶はほとんど無いけど、ついさっきのは少しある。  誠人の制止をきかないで、強引に抱いてもらおうとした。  それは、今のオレにはできない芸当だけど、出来たらいいなと思う時もある事で。 「オレ、ずっと酔ってた方がいい?」  誠人にとって、普段のオレよりもずっと楽なのではないだろうか。  訊くまでもなく、きっとそうだ。  湯気が充満していて温かい筈なのに、ゾクリと背筋に嫌な何かが走った。  冷えた水滴が流れていくだけなら、こんなに心は痛まない。 「良くない」  誠人がそう言うのは予想通りだ。  オレが後ろ向きな事を言うと、いつも否定してくれるから。  だけど、そのまま浴室に入ってくるのは予想外だった。  着崩れたワイシャツにズボンだけとはいえ、まだ制服姿の誠人は、衣服の事など全く気にもせずにオレの前に立った。 「おい!」  つい怒鳴ってしまうオレの手を取って、やけに真剣な表情を寄せてくる。 「どんな瀬口も可愛いけど、目の前にいる瀬口が一番可愛い」  風呂場で力説すんな。  オレだけ全裸で、全身ずぶ濡れで、手を握られて、そんな歯の浮くような事を言われたら滅茶苦茶恥ずかしいだろ。  しかも、可愛くなんかないし。  何につけてもダメダメだし。  と言うか、それは答えになってないだろ。 「……なんだよ、それ」  照れ隠しに顔を逸らしてしまうオレの頬に、誠人の唇が触れる。  治まったと思った火照りがまたぶり返してきて、今度こそ冷水で滝行もどきだなと息を吐いた。

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