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第107話 新年の抱負にしてはやや不純 -2
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「それは、なっちゃんが悪いわー」
「もっと気にしてやってよ、誠人のこと」
食堂の一角にて口々にそんな事を言うのは、当然の如く安達と仲井だ。
先ほど廊下で逆ギレした時に発見され、そのまま連行され、同じテーブルで昼食を共にさせられている。
四人掛けのテーブルに、オレと誠人が隣に座り、向かいに安達と仲井が座っている。
この配置に慣れつつあるのがちょっと嫌だ。
誠人の誕生日を知らなかったダメージに加えて、安達と仲井の容赦ないダメ出しで、正直言って食欲は全くない。
それでも目の前には、本日のランチA「からあげ定食」が鎮座している。
良い匂いが鼻孔を擽るので、食欲は無いが箸は持つ。
「むしろ、今まで気にならなったのかよって話だよな」
「可哀想になぁ」
安達と仲井のわざとらしい言い方はムカツクけど、今回はその通りだと更に落ち込む。
どうして今まで気にしなかったんだよ。
いくらだって機会はあったというのに。
と言うか、この口ぶりだと、こいつらは誠人の誕生日を知っていたようだ。
だったら教えろよ、オレに。
いつもいつもどーでも良いことばっか言ってくるクセに、どうして重要な事に限って言わないんだよ。
「なっちゃんがこんなんじゃ寂しいよな、誠人」
悪意しか感じられない仲井の言葉に、オレの隣に座る誠人が顔を上げた。
ちなみに、誠人が食べているのも「からあげ定食」である。
「いや、特には」
こちらの動揺なんて全くお構いなしの誠人は、あまり感情の無い声でそう言った。
それはそれで落ち込むわー。
「何?」
じとっと誠人を見ていたら、目が合ってしまった。
訊かれたので、正直に質問をする。
「欲しい物とかある?」
遅いけど、何もしないよりはマシだから。
どうせなら誠人の欲しいのを贈りたいので訊いてみた。
なのに。
「なっちゃんじゃない?」
間髪を入れずに安達が言う。
言うと思った!
そして、お前には訊いていない!
「そーじゃなくて」
「だって、なっちゃんも誕生日に誠人もらったんだろ? だったら、誠人の誕生日になっちゃんでも良くねぇ?」
いつもの悪ノリが大きくならないように釘を刺そうとしても、過去の自分の行いを指摘されてぐうの音も出ない。
「……それ、もう忘れてくれません?」
安達と仲井がニヤニヤと笑うのを見て、絶対に忘れてはくれないんだろうなと思った。
それは、隣の誠人もきっと同じなのだろう。
何であんな事を言っちゃったんだろ、オレ。
だけど、オレが言ったのは精神的な意味で、決してお前らの思っているような意味じゃなかったんだからな。
そして、今更だけど思い出してしまった。
当日、オレ一緒にいたよ。
なんなら、前日から一緒にいたよ。
自分で気付いていなかっただけで、そういう意味ではオレがプレゼントだったよ。
本人にその気があったのかは知らないけど、誠人がセルフで受け取った感じだ。
何だ、それ。
物凄く不本意だ。
ちょっと一言あっても良い場面だったと思うんだけど?
日付が変わって、「今日が誕生日」って言ってくれれば、オレなりにそれなりに頑張ろうという気持ちくらいは……。
イヤ。
当日言われたら言われたで、パニックだった可能性は大有りだ。
「恥ずかしいなら遠回しに伝えればいいんだよ。『いつでも抱いていい券』とか」
「わー、エロい」
そして、二人の悪ノリは続く。
ここで本人交えて作戦を練っている時点で、既に「遠回し」じゃないからな。
あと、この状況がこの上なく恥ずかしいんだよ!
昼休み中の食堂でなんて話をしやがるんだ。
弁当にして教室で食べればよかった。
「どうせなら、48枚綴りで四十八手フルコース券とか」
「いいな、それ」
「天才、と呼んで」
「呼ぶかっ!」
得意気な安達の提案に叫ばずにはいられなかった。
むしろバカだ、こいつ。
「一日で使える限度枚数決めてさ、組み合わせ可にするとか」
「天才!」
「任せて」
まるで、商品開発でもしているかのような盛り上がりだ。
自分とは関係無い事だから、こんなに楽しそうなんだな。
こっちは割と真剣に落ち込んでいるというのに。
本当に、もう……。
「……死ねばいいのに」
「なっちゃん、心の声が漏れてるよー」
無意識に呟いていた言葉に、安達が苦笑した。
しかも、当の誠人は何も言ってくれないし。
お前の一言で、この事態は終息するんだぞ。
と恨めしく思っていると、誠人の手が頭を撫でた。
「気持ちだけでいいよ」
そう言って微かに笑う。
「傍にいてくれればいいから」
そりゃ、お前はそう言うだろうよ。
だけど、それじゃオレ的に納得できないというか。
「じゃ、気持ち」
多少のモヤモヤを抱えつつ、自分の皿から誠人の皿へ唐揚げを一つ移動させた。
こんなもので申し訳ないけど、目に見えるもので表したい気分だから。
「ありがとう」
一瞬、意外そうな顔を見せた誠人だけど、すぐに嬉しそうな表情になった。
オレが移動させた唐揚げを一口で頬張る誠人を見ながら、今年の年末はちゃんとしよう、と今更ながら新年の抱負を持った。
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