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第108話 新たなる日々の始まり -1

 ※進級しました。  昨日で春休みが終わり。  で、今日から二年生。  と言っても、変わるのは教室くらいで、基本的には今までと大した違いはない。  ああ、そうだ。  もう一つ、大きく変わる事と言えば、クラス替え。  クラス替えは、一年から二年に進級する時に一度だけある。  一回やってしまえば、あとはもう卒業するまでずっと同じ面子だ。  まぁ、その一回というのが、問題と言えば問題なんだけど…。  やたらと遅刻欠席の多かった誠人も、今年は無事進級できた。  のに、誠人は今年も初日から学校に来なかった。  あいつの長期休み明けの出席率はゼロだな。  なんで忘れるかなぁ……。  あ、でも今回はちょっと違うらしい。  一昨日、間違って学校に来たらしい。  生徒会の用事で登校していた西原先輩が見つけて指摘して、大人しく帰っていったそうだ。  間違えないよな、普通。  学生にとって長期休みというのはかなり重要で、終る頃には「あと何日で学校が始まるー」って数えるものだと思うんだよな。  オレだけなのかなぁ、それ。  違うよな。  誠人がちょっと特殊なだけなんだよな。       「やっぱり来てないんだ、マサくん」  誠人の欠席を知った藤堂が、感心したようにそう言った。  そこは感心する所じゃないって。  ちなみに、進級しても藤堂とは同じクラスだったから、卒業まで一緒という事になる。  何だかんだと一番親しい友達だから、同じクラスで素直に嬉しい。 「拗ねてるのかな」 「……は?」  藤堂がポツリとそんな事を呟いたので、オレは思わず間抜けた声を上げてしまった。  拗ねる?  誰が、何に?  話の流れから言って誠人の事だろうけど、でも一体何に?  誠人が拗ねるって、あんまり想像つかない。  それは本当に珍しい。  誠人が学校に来ない理由なんて、今更考えるようなもんじゃない。  朝寝坊(なんてレベルじゃないけど)したとか、学校まで来るのが面倒とか、学校がある事を忘れるとか。  今回なんて、とても分かりやすい状況だ。  春休みが終わった事に気づいてないんだろう。  特に今回は、日にちを間違えちゃったから余計に分からなくなっているに違いない。 「だって、瀬口とクラス分かれちゃっただろ」  自分の事でもないのに、藤堂は実に残念そうに呟いた。 「んー?」  オレは、大して気にしてない素振りで、至って落ち着いてとぼけてみせた。  もしそうなら少し嬉しいだろうけど、そうじゃないって分かってるから。 「学校に来ても、去年みたいに瀬口に会えないから、拗ねてるのかもよ」  勝ち誇ったように何を言うか。  そーじゃないだろ。 「学校に来なかったら、もっとオレに会えないんだぞ」  キッパリそう言ってやると、藤堂は一瞬黙って、それからすぐに楽しそうに笑い出した。 「ホントにその通りだよね。さっすが、なっちゃん。期待を裏切らないラブラブっぷり」  何がそんなにおかしいんだよ。  オレ、何か変な事言ったか? 「どーしてすぐ『ラブラブ』とか言うんだよ。今の会話のどこにそんなのあった?」 「まぁ、まぁ、気にするなって」  そう言って藤堂はオレの肩をポンポンと叩いた。  何か、物凄く引っかかる言い方なんデスケド。  どのセリフがいけなかったんだろ。  間違った事は言ってないつもりなんだけどなぁ。  深く考えた所で、藤堂のツボはよく分からないから無駄かもな。 「『なっちゃん』?」  藤堂の笑いのツボ探しを諦めたのとほぼ同時に、オレたちの横に立った誰かに声を掛けられた。  知らない声だ、と振り向いて見た顔もやはり見覚えはなかった。  新学期の始まったばかりの教室内なので、初めて見る顔があってもそう不思議じゃない。  ただ、気になるのは、初対面にも関わらずオレを「なっちゃん」と呼びやがった所だ。 「今、『なっちゃん』って言わなかった?」  そいつは、やたらとデカイ図体を曲げてオレの方に顔を近づけてきた。  よく見ると、意外に整った顔だ。  あれ?  どっかで会った事あったような……?  なんか、今、一瞬頭に何か過ぎったような気がしたんだけど、捕まえる前にすぐに消えてしまった。 「言ったのはオレだけど」  藤堂が「何か文句でもあんのか?」という勢いで、愛想無い上に刺々しくそう言った。  毎回思うんだけど、黙っていれば可愛いのに本当に勿体ない奴だよな、藤堂って。  まぁ、「カワイイ」って言われるのが嫌いみたいだから、それはそれでいいんだろうな。 「て事は、やっぱこっちが『なっちゃん』だよな。そっちは『藤堂彼織』だし」  そいつは失礼にも、オレと藤堂を交互に指して勝手にそう決め付けた。  間違ってはないけど、何か気に入らない。  不躾すぎ。 「そっちとかこっちとか、何なんだよ、お前」  その事に関しては、オレより先に藤堂が口を開いた。  オレも同じような事を思ったけど、先に言われるとつい窘めたくなってしまう。 「あ、ゴメン。悪気は無いんだ。ただ、ちょっとビックリしただけで」  そいつは、思ったより簡単に、しかも人懐っこい笑み付きで謝った。  悪気が無い、というのは本当のようだ。  だけど、一体何に「ビックリ」したんだろう。 「俺は眞白(ましろ)。シロって呼んで。みんな大体そう呼ぶから」  と、ヘラリと笑ってそう言うけど、「マシロ」というのは苗字なのか?  それとも名前?  どっちでもいいか。  同じクラスなんだから、そのうち分かるだろうし。 「2年間よろしくな、なっちゃん。あ、そっちのカオリちゃんも」 「オレはついでかよ」  付け足したように「よろしく」されて、ちょっと不機嫌に藤堂が言う。  それはオレもちょっと思った。 「だって、弓月利って怖いんだもん。あの人が卒業したら、仲良くしような」  躊躇いなくそう言い放ったシロのセリフが、何とも賢明な言い訳に聞こえてしまった。  こんな所でも弓月さんの話題が上るなんて、本当に凄い人なんだな。  凄いと言うか、怖い?  でも、同じクラスなんだから、仲良くしても大丈夫だと思うんだけど。  実際に、オレは結構平気だし。  と、思うのは、オレがあまり弓月さんを知らないからかな。  それとも、藤堂にとってオレが無害だと思われているからなのかも。  じゃあ、誠人は……って考えると気分が暗くなるから、気づかなかった事にしよう。

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