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第112話 誘惑にも限界がある -1
自分を棚に上げて言わせて貰えば、誠人は同性であるオレのどこに欲情するんだろう。
ずっと、不思議で仕方が無かった。
だから、今の状況はとても困る。
自分で言い出した事とは言え、どうしたら誠人が悦ぶのかが分からないオレには、ハードルが高すぎる。
それなら、逆を考えてみるか。
オレは、誠人の何に欲情するんだろう。
とりあえず、キスをしてみる。
誠人がしてくれるみたいに上手くは出来ないけど、それでも大分進歩はしていると思う。
そう思ってるのはオレだけかな。
誠人はまだまだ全然余裕そう。
だったら、次は耳はどうだ。
耳を舐めたり噛んだりしてやる。
あ。
ちょっとくすぐったそう。
「瀬口」
「……ん?」
「服は、着たまま?」
ついに誠人を籠絡できたかと思ったのに、そんな事かよ。
それはそれで重要だけどさ。
オレがこれだけ頑張っているのに、何でお前はそんなに冷静なんだよ、って拗ねたくもなる。
「脱ぐ?」
「いい。オレがやる」
誠人が自分の着ている服に手を掛けたので、半ば意地になってその動きを遮ってやった。
こうなったら、絶対にオレのこの手でその気にさせてやる。
そう言えば。
「ところで、何で制服着てんの?」
ずっと疑問だった事をようやく訊くことができた。
今日が始業式だという事を忘れていた奴が、何故制服を着て買い物に行くんだろう。
「その辺にあったから」
誠人は何の感慨もなく、ただそう言った。
つまり、着替える時に目に付いた衣服がたまたま制服だった、と。
ズボンはともかく、ワイシャツを着るのは結構面倒だと思うんだけどな。
どーでもいいけど、制服を普段着にするなよ。
おかげで、今、オレが苦労する羽目になっているだろ。
ワイシャツのボタンを外す手が、上手く動かない。
いつもと逆だからだな。
多分、それだけじゃないんだろうけど。
人の着てる服ってこんなに脱がしにくいのに、何で誠人はいつもあんなに上手くできるんだろ。
最初の時から上手かったよな。
……慣れてるのか?
ふーん、そっか。
慣れてんのか。
「手伝う?」
その気遣いと微笑みは、モタモタしているオレを嘲笑っているみたいでちょっとムカツク。
「いい」
そう言った直後に、シャツのボタンを全て外す事に成功した。
これで一歩前進した。
けど、困った事になった。
いつもと立場が逆だと、いつも以上に緊張する。
「脱ぐのは、上だけ?」
ボタンを外し終わって次にどうしようか考えていたら、誠人が楽しそうに訊いてきやがった。
「今から脱がそうと思ってたトコだよ」
「そうか」
余裕の誠人は催促する訳でもなく、ただ軽く納得しただけ。
う~~~。
絶っ対遊ばれてる。
意地になって、出来る限りの手際で誠人のベルトを外してやった。
何というか、誠人だけ脱いでいる状況って今まで無かったから、ちょっと変な気分だ。
さっきまでキスしてた唇とか、これから触りまくろうとしている身体とか、まだ服に隠れている部分とか、ただ考えるだけでクラクラしてくる。
微かな息遣いにさえも敏感になってしまう。
誠人をその気にさせる前に、オレの方がヤバくなってしまいそうだ。
いつも、誠人もこんな気分だったりして。
……それは無いか。
オレにはこんな色気(と言っても差し支えないと思う)ないから。
正直、かなり限界。
これからどうしたらいいのか分からないし。
イヤ……分かってはいるんだけど、戸惑い感が邪魔して。
手より口の方がイイのかな、とか迷って自分がされてる時の事を思い出して一人でギャーって状態になってしまうし。
自分がされてる事をすればいい、って思ったけど、オレって相当凄い事されてないか?
違う違う。
凄いのは、されてるオレじゃなくて、してる誠人の方だって。
押し倒すとまではいかないけど、覆いかぶさるように、軽く圧し掛かってみた。
誠人を見下ろすような格好になるのは少し新鮮だ。
精一杯のオレの様子を見ていた誠人が、ずっと休ませていた手でオレの髪を梳きながら口を開く。
「何か、犯されてる気分だ」
無抵抗で楽しんでいる奴が何を言うかっ。
いつも自分がしている事だろーが。
……別に嫌って訳じゃないからいいけど。
「で、何で撫でてんの?」
いつまでも頭を撫で続ける誠人の手が気になって訊いてみた。
これはもう、撫でるではない。
髪を指に絡めて遊んでいる。
「触りたくなった」
「いつも触ってるだろ」
「今、触りたい」
という事は……。
「その気になった?」
触れる程近くにある誠人の顔を覗き込んで、期待しまくりで確かめる。
「もう少し」
そう言いながら、誠人の手はオレ服の裾をたくし上げて背中に触れた。
指先が身体の輪郭をなぞるように撫でてきて、ゾクッと身体が震えた。
素肌の上を滑る指に煽られて、思わず声が漏れてしまった。
すっげぇ嘘吐き。
さっきから腿に当たってんだよ。
もうとっくにその気になってるくせに、オレが戸惑いまくっているのを見て楽しんでるんだ。
こいつ、たまに凄くイジワルだ。
誠人の長い指が唇を撫でる。
「口、開けて」
言われるがままに軽く口を明けると、スルリと口腔に指が侵入してきた。
「んん……っ」
口の中を犯す長い指に舌が絡む。
舌が指を舐めているのではなくて、誠人の指がオレの舌を翻弄しているのだ。
指を噛まないようにと、開けっ放しの口の端から垂れる涎も掬われる。
苦しくなって無意識に誠人の手首を掴むと、その合図を待っていたかのように指が引き抜かれた。
「やっぱり、俺も手伝う」
そう言った誠人は、唾液で濡れた指をペロリと舐めた。
「このままだと、夜が明ける」
全くもってその通りたけど、はっきり言われるとムカツク。
つーか、頑張ってるオレに対して失礼だろ、コラ。
ヤるとなったら誠人は手が早い。
オレがもたもたと頑張っていた行為を、ほぼ一瞬で済ませてしまった。
肩から滑り落ちたワイシャツは肘で、下ろされたズボンと下着は腿の辺りで止まっている。
誠人の脚の間に膝を付いているオレの尻を、長い指が探る。
無防備な姿にされてる自覚はあるけど、今日はその手を止めることはできない。
「……んぁ」
入り口付近を撫でられて、吐息にしては甘ったるい声が漏れてしまう。
唇を噛んで、妙な声が出ないように気を付ける。
気を抜くと崩れ落ちそうだ。
「瀬口、声は?」
「……っ」
首筋を這っていた誠人の唇がイジワルな事を言う。
「声、聞かせてくれないと、その気にはなれない」
その言葉が嘘だと分かっても、今のオレにはどうにも出来ない。
例え憎まれ口であろうと、声を出そうとすれば違う声が出てしまう。
必死に耐えるオレを試すように、中に入れられた誠人の指が内部を掻き回す。
ガクガクと膝が震えて、誠人にしがみ付く腕に力が入る。
ヤバイ。
これは、かなり。
掴んでいた誠人の肩に顔を埋めて息を吐いた。
瞼を閉じると、眼の端に涙が溜まってくるのが分かる。
「ま……さとぉ」
「ん?」
随分と長い間、こうしている気がする。
体内に入った長い指は、相変らず自由に動いている。
付け根まで入った指がゆっくり出し入れされて、曲げたり擦ったりされる度に、嫌な声が漏れる。
「はっ、んん……」
俗に言う甘い声ってやつなんだろうけど、自分から出ているのかと思うと恥ずかしくて嫌すぎる。
「……も、ヤだ、ぁ、んっ……そこ、ヤめ」
言葉が上手く紡げない。
流れてしまった涙も止められない。
出し入れされながら広げてくる指の動きに翻弄されて、涙で霞んだ視界と頭の中が更に朦朧となる。
こんな事に慣れる日なんて一生来ないと思っていたのに、最初の時よりも本当に少しずつだけど慣れつつある身体に笑ってしまう。
指の動きに支配された身体が疼いて、既に勃ち上がっている自分のものに触れて欲しくて堪らなくなる。
しがみ付いたまま擦り付けるように腰を動かすと、誠人の喉が鳴ったのが分かった。
「前も、触って欲しい?」
耳元で訊かれて、何も考えずに二度も三度も首を縦に振って答えた。
「あ……っ」
不意に指が引き抜かれた。
解放感と同時に訪れる喪失感で、やっぱり泣きたくなる。
脚に引っ掛かっていたズボンや下着を剥がされて、そのまま畳に寝かされた。
どうせなら、隣の部屋に移動すれば良かったかな。
布団敷きっぱなしだろうし。
畳はただ寝る分にはいいんだけど、激しい事をすると肌が擦れて痛いんだよな。
「……っん」
ぼんやりと余計な事を考えていた所為で、無防備になった一瞬を突いて唇を塞がれた。
ぬるりと侵入してきた誠人の舌が上顎と歯列を撫でる。
と同時に、オレの要求を満たすべく、溢れていた粘液ごとオレの性器を掴み扱きだした。
「んっ、んん、ぁ、……んんーっ!」
触れてもらえた嬉しさと、与えられる刺激の強さで、あっという間にイってしまった。
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