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第114話 誘惑にも限界がある -3

 放たれた熱いものが腹の中に広がっていくのを感じながら、乱れた呼吸を整えようと息を吸う。  体内には誠人の、腹には自分の吐き出した精液があって、後始末が大変だなとぼんやりとした頭で思った。  ぐったりと力の抜けた身体が、抱きとめられているのがやけに嬉しい。  汗ばんだ肌にしがみ付いて、短いけど爪を立てて、力一杯に自分のものだと抱え込んだ。  いつもは自信なんて持てないのに、身体が繋がっている間は、愛されているんだって自惚れられるから。 「瀬口は、どんどん大人になるな」  しみじみとそんな事を言われて、「は?」となった。 「それは、オレが子供だって言ってる?」  一つしか歳違わないけど?  と言うか、こいつはオレの事どう見えてるんだよ。 「瀬口に、乗られる日が来るとは思わなかった」 「……っ!」  今、それを言うか!?  しかも、正確には「乗った」のではなく「乗せてもらった」だし。  いつも以上に自分の事ばっかだったし。  体位を頑張っても、全く役に立っていない。 「乱れてる瀬口も可愛いよ」 「!?」  絶句するしかない。  本当に、こいつはもう、どうしてそういう事を平気で言うかな。  中に挿れたままでそんな事を言うから、動揺したオレが締めてしまって、誠人は若干苦しそうに息を呑んだ。  ざまーみろ、と思ったけど、今のオレたちは一蓮托生なので、感じてしまってオレも辛い。 「あの、そろそろ……抜いて欲しい、んだけど」  そわそわした気持ちを悟られなくて、なるべく何でもない事のように言った。  心の物理法則的に自分では無理なので、お願いするしかない。 「んー」  なのに、誠人は気の無い反応だ。  こいつ!  腰を押さえられていて身動きが取れないので、オレの立場はとても弱い。  誠人の思い通りの展開になるしかない、と思うとドキドキして声が上擦ってしまう。 「まだ、シたいとか、思って、る?」 「それは、思ってるよ」  即答されて脈が上がった。 「瀬口がいいなら」  こちらに選択権を渡されて、ゴクリと唾を呑んだ。  それはつまり、この先があるのか無いのかオレに決めろ、と言っている。  そんなの困る。  本日、既に二度もイっているので、個人的にはもう十分だ。  だけど、誠人的にはどうなのだろう。  きっとまだ満足していない。  体内のものがまだ萎えていないから、そうに決まっている。  そもそも、オレが相手では十分でないのかもしれない。  それなのに、オレだけこんなに満たされて申し訳なくなる。 「……ダメなんて、言える訳ないだろ」  同じくらい気持ち良くなって欲しいのに、オレにはその仕方がまだ分からなくてもどかしい。  だから、好きなようにしてくれ、と思う。  でも、オレからも何かしたい、とも思う。  誠人の悦ぶことをしたい気持ちと、怖気づいて躊躇してしまう現実が胸を締め付ける。  ゆっくり後ろに倒され畳に寝かされて、流れるような動作で胸を舐められる。 「あっ……ぁ」 「無理させたら、ごめん」  上目遣いでこちらを見た誠人が、申し訳なさそうにそんな事を言う。  また謝らせてしまった。  「大丈夫」と言いたいのに、言葉は出てこなかった。  胸に付くくらいに脚を折り曲げられてガツガツと突かれては、呼吸もままならない。  少し前に「無理しなくていい」と言っていた奴と同一人物とは思えない所業だけど、オレの耳障りな呻き声に混じって、押し殺したように誠人の声と息遣いも聞こえるのが心地よくて、溺れきった身体は預けて安心して目を閉じた。

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