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第120話 そして全ては闇の彼方へ -2

□ □ □  誠人が姿を現さないまま、とうとう午前中最後の競技になってしまった。  オレも参加する騎馬戦だ。  騎馬戦の後に昼休憩があるから、きっとそれまでには来てくれるだろう。  あ。  でも、昼飯食べてからっていうのも可能性有るな。  となると、13時か14時くらい?  かなりギリギリだな。 「集中しないと、落ちるぞ」  一人でブツブツと考え事をしていたオレに親切に忠告してくれたのは、オレが乗る騎馬の一人である森谷だ。 「分かってるよ」  せっかくの忠告を素直に受け取れないのは、きっと相手が森谷だから。  お前が言うな、って気分になってしまう。 「そんなに心配しなくても、俺が勝っても何もしないよ」  オレが上の空の理由を察した森谷は、苦笑混じりにそう言った。 「当り前だっ!」 「暴れるなよ、瀬口。危ないだろ」 「うわっ」  いつもと同じように森谷怒ってやったら、グラリと体が揺れてバランスを崩してしまった。  慌てて前の奴に掴まってなんとか姿勢を保つ。  騎馬の上は不安定だから、1人が少しでもグラつくと全員に影響が出てしまう。 「始まる前から何やってんだよ」 「頼むから大人しくしててくれって」 「暴れるなら落とすぞ」  森谷を含む騎馬の3人から次々と文句が飛んできた。  仰るとおりで、何も言い返せない。 「……ゴメン」  小さい声ながらも素直に謝った所で、競技スタートのピストル音が鳴り響いた。  オレがそれを見つけたのは、多分、その直後。  朝からずっと探していた誠人が、応援席にいた。  思っていたより早く来たな、なんて思っていたら、オレの知らない生徒と親しげに話をしている。  1年生かな?  藤堂とは違った感じだけどカワイイ系の後輩。  女の子みたい、というよりは、まだ幼いって感じだな。  誰だろ?  あ。  そこに仲井も加わった。  仲井が覗き込むように話しかけると、その生徒は誠人を軸にして反対側に逃げてそのまま誠人の腕にぴたりとくっ付いた。  最初はちょっとムッとしつつも、また仲井が変な事言ったんだろ、くらいにしか思わなかった。  だけどそこに安達も混ざると、更に誠人との密着度が高くなった。  オイオイ、何なんですかその子は。  ちょっとくっ付きすぎじゃないんですか?  オレの知らない奴なのに、誠人と親しそうなのが物凄く引っかかる。  何だかあまりいい気分がしないのは、最近誠人とちゃんと会っていないからだ。  「触るな」って言ったら、本当にその通りになった。  それどころか、「会うと触りたくなるから」って避けるし。  そこまで徹底しなくてもいいっつーの。  あの時は怒ってたから勢いで言ってしまっただけで、別にそこまで本気じゃなかったのに。  って、 何でオレが落ち込まなきゃいけないんだよ。  しかも、オレの事なんか気にも掛けてない風に遅刻してくるし、全然こっちも見ないで知らない後輩と楽しそうに喋ってるし。  お前は一体何を考えてるんだよっ。  オレがいなくても平気そうにしているから、胸の奥がムカムカする。  嫌だな、こんな気分は。  離れているだけで、被害妄想はどんどん酷くなっていく。  たまに、ちょっと思う事がある。  オレと誠人がまだ出会う前に戻ってみたい、と。  それで、最初からちゃんと上手く付き合っていきたい。  弾みのような付き合い始めじゃなくて、こんな面倒なオレでもなくて、もっと誠人とバランスの取れた付き合い方がしたい。  そんなの無理だって分かっていても、時々考えてしまうんだ。  今のオレじゃ、煩わしいと思われても仕方ないから。  もっと自信を持ちたい。  「好き」って言われても、素直に受け取れるように。  誠人だって、オレがもっと素直で可愛い性格だったら良かったのに、って思っているかもしれない。  そんな事を考えてると、胸の辺りが潰れそうになるんだ。  競技のことなんて忘れて誠人たちを見ていて、不意に何かを思い出した。  あれ?  あの後輩の子、見たこと……ある、かも?  どこでだっけ?  あまりにも凝視していたオレの視線に気づいたのか、誠人がこちらを見た。  こんなに離れているのに、目が合ったのが分かる。  こっち見ろ、って思ったけど、実際にこんな状況で目が合ってしまうとなんだか恥ずかしい。  こちらを見た誠人の表情が、一瞬凍りついたように固まった。  何かを訴えようとしているように身を乗り出す。 「瀬口!」  不意に名前を呼ばれたと思ったら、視界が回転していた。  「どうしたんだろう」と考える余裕があるくらい時間がゆっくり流れて、いつの間にか天地が分からなくなっている。  敵味方入り乱れて騒然となる周囲から、一人だけ取り残されたように真っ白になった。  激しい衝撃の後、スイッチが切れたような真っ暗闇に落ちた。

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