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第127話 逃げるか追うかは自分次第 -1
高校生になったら、可愛い彼女ができるものだと思い込んでいた。
願望という程強いものじゃないけど、漠然とした期待を抱いていたのは確かだ。
それが、どこをどう間違ったら、あんな可愛さの欠片も見当たらない男なんかと……。
別に、塚本は嫌いじゃない。
と言うか、嫌いになる程会話をしていない、と言った方が正しいか。
屋上での「アレ」にしても、びっくりしすぎて真っ白になってしまったから、それ以外の感情はほとんど覚えていない。
思い返すとかなりドキドキするけど、それは驚きすぎた所為だろう。
それに、あいつの場合、「友達」っていうのもなんか変な感じがするんだよな。
年上の所為かな。
オレが今までに出会った奴らとは違う、ちょっと異質な空気が漂っている。
あの独特な空気は、確かに興味をそそられる。
それは認めよう。
でも……。
「だからって、付き合う事はないだろ」
「何か言ったか?」
「別に」
不機嫌にそう言ったオレを不審そうに覗き込むのは、部活に向かう途中の森谷だ。
帰宅することにしたオレと途中まで一緒に行くと言うので、短い間だけど行動を共にしている。
森谷には悪いけど、さっきの話は半信半疑な部分が多い。
騙されている可能性もあるし、全部鵜呑みにしてしまうのは危険だ。
だけど、そうなると、一体どこまでを信じればいいのか分からなくなってしまう。
保健室で目が覚めてから今までに教えられた事が全部嘘だったら、人間不信に陥りそうだ。
まぁ、さすがに全部って事はないにしても、半分くらいはありそうだよな。
中でも、塚本と森谷の事。
それが嘘だったら、というのは、オレの希望もかなり入っているけど。
「瀬口」
歩きながら悶々と考え込んでいたら、前方を指した森谷に肩を叩かれた。
何だろうと思って森谷の指した方を見ると、生徒会長が歩いて来るところだった。
オレの目が覚めた時に周りにいた、頭の良さそうな眼鏡の先輩だ。
後でこの学校の生徒会長だと知ってちょっとビックリした反面、妙に納得してしまった。
物凄く「らしい」感じがする。
なんと言うか、雰囲気がそういう感じなんだよな。
こちらにやって来る会長は、オレと森谷を交互に見て少し笑ったようだった。
「帰るのか?」
近くまで来た会長に訊かれたので、素直に頷いた。
「俺は部活ですけど!」
「だろうな」
やたらと張り切った言い方の森谷を軽く流して、会長はこっちを見た。
「この後、特に予定が無いなら柔道場に行ってみるといい」
保健室で会話した時とは少し違う、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。
「道場?」
「珍しいものが見られるぞ」
首を傾げたオレに構うことなく、言うだけ言って去って行ってしまった。
何だろう。
意味深な言葉を残して行ってしまった会長の背中を見送りながら、隣の森谷に話し掛けた。
「珍しいものだって」
「行くのか?」
「そうだな。特に予定もないし。森谷は?」
「俺もちょっと気になるな。あの西原先輩が珍しいって言うのが何なのか」
森谷も、部活より会長の発言に興味を抱いたようだ。
イマイチ場所の分かっていないオレは、森谷の案内で、珍しいものが見られるという道場へ向かった。
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