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第140話 知れば知るほど深まるように -2
うーわー。
何でここにいるかな。
まだ屋上で寝てるかと思ってたのに。
こんな時に限って勘が良くて嫌になる。
しかも、思いっきり写真見られているし。
「いらないだろ」って言われたのに、嬉々として眺めていたなんて気まずすぎる。
「いや……オレって、誠人のこと何も知らないから、少しでも知れたらいいなぁ、なんて思って」
なるべく自然に、手に持っていた写真を伏せながら言う。
既に見られたのだから手遅れだけど、隠さずにはいられない。
「『何も』?」
「え?」
写真を見られてしまった事で頭が一杯だったオレには、誠人が何に引っかかったのか分からなかった。
聞き返してみたものの、誠人からそれ以上の補足は無い。
ジッとこちらを見ているだけ。
やっぱり、ちょっとご機嫌斜め?
「例えば、これとか?」
妙な空気のオレと誠人の間に、更に空気を悪化させるようなものが差し出された。
諒くんがヒラヒラと持っていた、誠人と瞳子さんの写真だ。
「!?」
それが何か分かった瞬間、奪い取ろうと咄嗟に手を伸ばしたけど全く上手くいかずに空を掴んでバタリとテーブルに倒れた。
いつの間にか立ち上がっていた諒くんと、まだ椅子に座ったままの上に慌てているオレとでは、結果は見えていたけど。
何も、このタイミングで戻してくれなくてもいいのに。
「それなりに気になるらしいよ」
写真をじっと見たまま何も言わない誠人に、さっきのオレとの会話をなぞるように諒くんが言う。
確かにそう言ったけど、本人に伝えてくれなくてもいいんだって。
「可愛い女の子だから、余計に」
おまけに、人の心まで読みやがった。
そこまで詳しくは言ってないのに。
余計な事を言わないでくれと忠告しようとしたら、諒くんはスマホを取り出して何やら溜め息を吐いている。
どうやら、誰かから何かしらの連絡があったらしい。
手早く返信をしたかと思ったら、少し憂鬱そうな表情でこちらを見て口を開く。
「俺はそろそろ行くから、あとはごゆっくり」
「え!?」
とんでもない方向に誘導したかと思ったら、あっさり立ち去ると言う。
それはあまりにも無責任すぎる。
どこの誰からの連絡かは知らないけど、残されたこの空気をどうしろというんだよ。
「じゃ」
しかも、その写真をテーブルの上に堂々と置いて行くという暴挙までやらかしてくれた。
去り際にヒラヒラと手を振る諒くんを恨めしい気分で見送りながら、慌ててその写真を誠人の目から遠ざけた。
それから、再びゆっくり誠人を見上げると、誠人も諒くんを見ていた。
やっぱり知り合いだったのか?
でも、そんな感じはしなかったけどな。
顔見知り程度でも無い感じだったよな。
「写真部?」
食堂を出て行く諒くんの後姿を見やりながら、誠人が訊いた。
「そう。昨日の写真も、諒くんに貰ったんだ」
「りょうくん」
それは、初めての相手を忘れないように復唱したような呟きだった。
「知り合いじゃなかったんだ?」
「……」
おい。
何だよ、その沈黙は。
昨日も写真部のことを気にしていたみたいだから、そういう態度を取られるとちょっと不安だぞ。
隠し撮りの常習とはいえ、諒くんはあんな誠人の事に詳しいんだから、十分逆もあり得るんじゃないのかって。
知らないんだったらそう言ってくれるだけで、かなり楽になれるのに。
「それ」
と、言って誠人が指したのは、諒くんが置いていった誠人と瞳子さんの写真だ。
見えないように裏返しにして、隠すようにオレが持っている。
諒くんがあんな事を言ってくれたおかげで、誠人はこっちの方が気がかりになってしまったようだ。
「撮ったの、いつ?」
「分からない、けど……多分、オレが入学する前、かな……?」
希望を込めてそう答えた。
残念ながら、オレにはこれがいつ撮られたものなのかの判断はできない。
「付き合ってたの知ってるし、言うほど気にしてないから」
乾いた笑いが漏れる。
気にしてないんだったら、後ろめたい気分になって隠そうとなんかしないよな。
嘘なのバレバレだ。
「誠人さん、こんな所にいたんですか!?」
オレの気分にそぐわない、妙に明るい声が間に割って入ってきた。
誠人でも、無論オレでもない。
新手は誠人の背後にいた。
「屋上にいると思って行ったのに、いないから探しちゃいましたよ」
やたらとカワイイ顔がひょっこり現れた。
誰だ?
どこかで見たような気がするけど、どこでだ?
カワイイ顔って話題、つい最近したよな。
ああ、そうだ。
体育祭の写真の有島くんだ。
「探す?」
「相談したいことがあるって、言ったじゃないですか」
誠人の腕を掴んでグイグイと引いている。
何だ、こいつ。
いくらなんでも、これは馴れ馴れしすぎだろ。
体育祭でオレが見たあの光景も、一緒に写っていた写真も、偶然なんかじゃないって突きつけられているみたいだ。
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