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第141話 知れば知るほど深まるように -2

「今日は、用事があるんだ」  そう言った、誠人が何故かオレを見た。  二人の関係を邪推してグルグルなっている真っ最中だったから、ビクリと驚いてしまった。  誠人につられて有島くんの視線もこっちにやってきた。  二人のやり取りを黙って見ていたオレにしてみれば、一気に視線が集まってしまって戸惑ってしまう。 「えっと……」  まだ椅子に座っているオレから見れば、位置的に見上げる形になる。  有島くんの実物は確かにカワイイ。  シロは、カオリちゃんを見慣れているとそうでもないって言ってたけど、充分カワイイと思う。  男に対して言うのもどうかとは思うけど。  カオリちゃんも、カワイイって言うと怒るしな。  万が一、オレが言われても気分悪いもんな。  ん?  有島くんに、何故か睨まれている気がする。  「カワイイ」と思ってしまったのが顔に出ているかも。  もしくは、無意識に恨めしい表情でもしていたのかもしれない。  オレの勝手な被害妄想っていうのもありえるか。 「知り合い?」  二人を交互に見て訊く。  混乱した頭では、シンプルな質問しか出てこない。 「はい。ずっと前から」  実に明瞭な答えが返ってきた。 「そう、なんだ」  「ずっと前」とは、どのくらい前なんだ?  ニュアンス的に、オレと誠人が出会うより前っぽいな。  その割には、オレは知らないぞ。  体育祭の時にちょっと見たけど、二人がこんな風に喋っているのを間近で見るのも初めてだ。  そもそも、相談を持ちかけられるような仲だなんていうのも初耳だ。  今まで中等部だったから接点が少なかったにしても、こんなに親し気なら、高等部に進学してから見かける機会もありそうなもんだけどな。  と、考えて不意に脳裏に映像が過ぎった。  そう言えば、前にこの学食で見たことがあったな。  あの時の有島くんはまだ中等部の制服を着ていたから、去年だ。  誠人は名前を忘れたって言ってたけど、この親しさでそんな事があり得るか?  って、あり得るのが誠人なんだよな。  この誠人が意図的に隠していた、なんて事の方が考え難いかな。  気になって誠人の方を見ると、何故か笑顔が視界に入ってきた。  こっちは結構真面目に考えているというのに、かなり機嫌が良さそうで温度差を感じる。 「何、笑ってんだよ」 「妬いてるのかな、と思ったから」  さらりと笑顔で恥ずかしい事を言いやがった。  どうして、今の会話でバレるんだ!?  表情か?  そんなに分かりやすく顔に出てしまっているのか!?  オレより前に誠人と知り合っていたらしい有島くんに対して、少なからずそういう気持ちが湧くのは仕方ないだろ。  妬いて悪いかよ。  他に無いだろ。  オレが有島くんを気にする理由なんて。  しかも、有島くんがいる前で言うし。  答えづらいだろーが。 「……どーせ」  オレは疑り深いですよ。  それにお前のこと、「誠人さん」って呼んでるんだぞ。  お前を「誠人さん」って呼ぶ後輩にオレが嫉妬しない訳ないだろ。 「可愛いな」 「……どこが」  誰の事を言ってんのか聞こうと思ったけど、オレを見て笑っている誠人を見たら聞くだけ無駄だと気づいた。  本当に、こんなののどこをカワイイと思えるのか疑問で仕方ない。        オレたちのやり取りが不愉快だったらしく、有島くんはそれからすぐに立去ってしまった。  相談したいことがあるって言ってたけど、良かったのかな?  それにしても、何と言うか、後輩に懐かれている誠人って凄い違和感がある。  むしろ避けられてそうな感じなのに。  誠人に相談しても何も解決しなさそうなんだけど、そこまで拘る何かがあるんだろうか。  と、勘繰ってみたり。 「瀬口」 「はいっ!」  余計な事を考えてしまっていたので、誠人に呼ばれてびっくりして過剰に反応してしまった。 「帰ろう」  髪をぐしゃりと撫でられた。  複雑にこんがらがってしまっていた思考が、その時だけ少し緩んだ気がした。 「でも、用事があるんだろ?」  撫でられた髪を、今度は自分で撫でながら訊く。  さっき有島くんに言っていたばかりだし、目の前で聞いていたんだからいくら何でも憶えている。  気を遣ったオレを見て、誠人は少し笑ったようだった。 「俺のこと、何も知らないって言うから」  オレの座る椅子の背凭れに、誠人の手が置かれた。  腰を屈めて、顔を近づけてくる。 「教えようと思って」  キスされるんじゃないかと身構えたオレの耳を、楽しそうな誠人の声が掠める。  ビクリとなったオレの反応を確認して、ゆっくりと離れていった。  肩透かしというよりは、遊ばれた感じがして悔しい。  「用事がある」って言うから確認しただけなのに、それをわざわざ、あえて耳元で囁く必要なんか無いだろ!  しかも、さっきオレが言った事を気にしていたのか。  あの時は分からなかったけど、引っかかってたのはそこか!  恨めしい気分で、まだ立ったままでいる誠人を見上げる。  いつもなら、立ってるだけでも面倒だといわんばかりにすぐに座るのに。  帰るって言ったのは本気らしい。 「何でも教えてくれんの?」 「ああ」  そんなに軽く頷かれると、凄く際どい質問をぶつけてやりたくなる。  だけど、誠人がうろたえるようなものなんて、すぐには思いつかなくて悔しい。  家に着く頃には、何か良い質問が思いついているだろうか。

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