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第157話 それは愛しさに比例する -4

 今日はこれが初めてじゃないというのに、こいつのヤる気は問題が無さ過ぎる。  仰向けで寝ているオレの脚を持ち上げて、今日だけで何度受け入れたか記憶も定かではないそこへ熱くて固くなったものを押し付けた。 「あっ、あ……っ、や、ぁ」  ぐいぐいと進入してくるから、息も乱れるし、声も抑えられない。  かと言って、優しくない訳では決して無い。  過剰なくらいの愛撫に慣らされた身体だから、多少強引なくらいでも喜んで受け入れられる。  優しくしてくれている、と思うだけで胸の奥が疼くように痛くて、それが下半身にも伝わるみたいに感じてしまう。 「大丈夫?」  収まったところで、一旦動きを止めてオレの身体を心配してくれるのは嬉しいけど、今更「ダメ」と言った所でどうにもならないだろ。  オレも、お前も。  ここまできたら、大丈夫じゃなくても最後までしてもらわないとオレも困る。 「んっ……だいじょ、ぶ」  浅い息をしながら何とか答えた。  抱え上げられた自分の膝越しに恍惚とした顔が見えて、今の自分と同じ気持ちなのだろうと思うと満たされる。  キスを求めて視線を送ると、要求どおり唇が重ねられた。 「ぁ、んっ……」  顔を近づける為に態勢が変わって、身体がビクリと震えた。  上顎を舐められ、舌を吸われて、思考が蕩ける。  して欲しい時にキスしてくれるから、気持ち良くて酔ってしまう。  もっともっと深くって、際限が無くなる。  絡み合って繋がっているのに、それでもまだ足りないと求めて息が上がる。  離れないように、首と背中に両腕を回して抱き締めた。  触れ合う肌がピタリと吸い付いて気持ちがいい。 「ホントに、オレのものって、思ってもいい?」  こんな事を図々しく訊けるのは、オレもかなり煽られてるからかも。 「いいよ」  薄く笑って肯定される。 「俺は、瀬口のものだから、瀬口がいないと生きていけない」  首筋を彷徨っていた唇がゆっくり移動して、耳朶を弄りながらそんな事を言う。  鼓膜直撃で、頭を通り越してガンッと胸に響く。 「……そーいう事、言うなっ」  ただでさえ泣かされている状態だというのに、更に感情が昂ぶって顔がふにゃっと歪んでしまう。  そんな大袈裟な言葉を期待した訳じゃない。  つーか、生死を分けるような選択でもないって。 「本当」 「嘘だぁ」 「そう思うなら、俺の前から消えてみる?」  信じる気のないオレに、少し意地悪く訊く。 「本当だって、分かるから」  切ない声と表情がやけに重く感じて、すぐに後悔した。  そうだ。  こいつは一度それを体験していたんだ。  オレが記憶を失くした時、恋人としてのオレは消えてしまって、それで…。  ついさっき反省したばかりなのに、また傷つけてしまった。  こいつは、どんな気持ちで過ごしていたんだろう。   オレが忘れられたら、絶対に辛い。  生きていけないって思わないなんて言い切れない。 「……ヤ、だ。オレがヤだぁ」  記憶が無かったとはいえ酷い事をしてしまったのに、敢えて姿を消すなんてことできる訳がない。  勿論、その逆も嫌だ。  そう考えたら、ボロボロと涙が零れていた。  その涙を、吸い付くようなキスで拭われてゾクッと震える。 「俺も嫌だよ、奈津」 「……っ!?」  不意打ちすぎる慣れない響きに、ただでさえ忙しい鼓動がより激しくなる。  今、オレのこと名前で呼んだ?  こんな時に、そんな風に呼ばれて、どうしようもなく狼狽えてしまう。  たかがそんな事で、こんなに動揺するなんて。  名前で呼ばれるなんて珍しくもないのに、相手がこいつだと、どうしてこんなに恥ずかしいんだ!? 「瀬口、締めすぎ」  そんな苦情、オレにはどうにもできない。  そもそもの原因はお前だろ! 「だって、お前っ……!」  あれ?  今のは「瀬口」だった?  それじゃ、さっきのは空耳?  オレの願望とか? 「ごめん」  あたふたするオレに苦笑して謝るところを見ると、それもまたこいつの意地悪の一つだったんだな。  まんまと遊ばれて悔しいけど、今はもうそんな事はどうでもいい。  オレの中に収まっていたものがギリギリまで退いて、「あ」と思った時には再び戻ってくる。 「あっ……ぁあ、はっ、んん」  何度も繰り返される動きに、喘ぎ声を重ねて受け入れる。  さっきは絶望感が混ざって複雑な気分だったけど、今は素直に身を委ねられる。  どこまで行っても、抱きとめてくれるって分かるから。  だから、できるだけ長く、深い所まで抱え込んでいたいんだ。  きっと、こいつもそう思ってくれている筈だから。  今日は、朝になるまでこうしていても良いかもしれない。

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