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《番外》最善の選択とは -2【塚本】
* * *
「今日はお前に話がある」
弓月が突然現われてそう言い放ったのは、数日後の放課後だった。
いつもの偉そうな言い方に加えて、既に塚本の脚に蹴りを入れている状態で。
とてもじゃないが、「話がある」という態度ではない。
「口より先に、足が出てるけど」
「足だけじゃなくて、手も出そうか?」
よろけて、辛うじて踏み止まった塚本は非難の視線を送ってみたが、当の弓月には全く届かなかったようで拳を見せて不敵に笑った。
「いらない」
「まぁそう言うなよ。話があるっつーのは本当だから」
伸びてきた手は拳ではなかったが、塚本の胸倉を掴んで逃亡を阻止している。
この一連の光景を客観的に見ている人がいたなら、恐喝だと思われても否定はできないだろう。
「聞くから、手を放せ」
慣れているとはいえ、理不尽な攻撃はできるだけ避けたい。
少しでも距離を取りたい塚本の申し出に、弓月は眉間に皺を寄せた。
「放せと言われてその通りにすんのはかなり癪なんだけど、お前と顔付き合わせてんのもムカツクからな」
自分で勝手に近寄ってきたクセに、弓月は少々乱暴に塚本から手を放した。
弓月にしては素直に言う事をきいた、と思うべきだろう。
「お前の所為で、彼織の機嫌が悪いんだ」
心当たりの無い文句を付けられてとても不本意だが、まだ弓月の間合いにいるので余計な事は言わない方がいい。
「どうにかしろ」
「と、言われても」
さり気なく距離を取りながら言う。
いつもの事ながら、唐突すぎて全く話が見えない。
藤堂の機嫌に塚本が関わっているという覚えは無いし、例えそうだとしてもどうにかできる筈もない。
そもそも、藤堂に自分以外の人間が関わる事をこの弓月が許すのだろうか。
「お前、なっちゃんと別れたんだってな」
全く予想していなかった名前が弓月の口から発せられて、少なからず動揺した。
「何だか知らねぇけど、彼織が気にしてんだよ」
面白くなさそうにそう言って、舌打ちをする。
「今日、お前の家になっちゃんが行くから、なんとかしろよ」
予想を裏切らない急展開だ。
「は?」
一瞬、弓月の言葉が理解できなかった。
少し考えて、それでもまだ弓月の思考に追い着けない。
「この俺が、こんだけ面倒見てやってんだから、文句なんかねぇよな」
塚本を置き去りにして、弓月は一人悦に入ったようにそう言った。
「どうして瀬口が……」
家に来るのか、と言いかけて、藤堂の機嫌が悪い理由の心当たりに辿り着いた。
きっと、塚本と瀬口の事を聞きつけた事が原因だろう。
自分に関係の無いことでも本気で喜怒哀楽を表現する藤堂の事だから、今回も相当騒いだのかもしれない。
それだけ親身になってくれるのはありがたいのだが、弓月まで巻き込むのは正直勘弁してもらいたい。
「仕返し的なことを考えんのも分かるけど、そんな事に巻き込まれる彼織の事のも考えろ。てか、八つ当たりされる俺の迷惑も考えろっつーの!」
実に弓月的な苦情ではあったが、内容は真っ当なものだった。
それに、間接的ではあるが瀬口の様子も若干伝わった。
弓月がわざわざ出向いてくる程に藤堂の機嫌が悪いという事は、瀬口の状態もあまり良いものではないのだろう。
落ち込んでいるか、怒っているか。
最後に見た瀬口を思い浮かべるかぎり、藤堂が弓月に当たるほど怒っているとは思えない。
塚本の気持ちを試したつもりが、思ったような結果にならなくて落ち込んでいると考えるのが自然だろう。
「そうだな」
一体どういう流れで瀬口が塚本の家に行くように誘導したのか知らないが、瀬口がやってくるというのなら要件は一つだ。
「そろそろ、瀬口が降参する頃だと思うし」
とは言ってみたが、我慢ができないのは塚本の方だった。
一時的とはいえ、自分から離れたというのに、たった数日で根を上げそうになっている。
もう、抱きしめて「あれは嘘だ」と言いたくなってしまっている。
きっと、会ってしまったら、耐えられないだろう。
「お前、実は俺より性格悪いだろ」
知らず知らずのうちに微笑んでいた塚本を見て、弓月が呆れたようにそう言った。
一番言われたくない人物に言われて、若干ムッとする。
「それは、無い」
言うや否や喰い気味に蹴られて、その場に倒れこんだ。
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