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《番外》振り返らずに進め -11【伊原】
昼飯を買いに行くという奈津さんに付いて購買に向かう。
森谷先輩に邪魔されるかと思ったけど、あの人はあのままどこかへ行ってしまった。
好都合だ。
「奈津さん」
道中、横に並んで呼びかける。
「今は俺しか聞いてないから、素直に言っても大丈夫ですよ」
廊下には沢山の生徒たちがいるけど、俺たちを気にしている奴はいない。
ここなら、さっきは照れて言えなかった事も言えるだろう。
「……何が?」
「だから、俺の事好きなんでしょ?」
「お前、やっぱり全然分かってなかったんだな」
脱力した奈津さんが息を吐く。
「照れなくてもいいですって。俺、今は奈津さんの事結構好きですから」
「別に、好きになってくれなくても良かったんだけど」
冷めた声で奈津さんがそう呟いた。
ここでもダメか。
本格的に2人きりじゃないと言えないのかな。
「またまたぁ」
奈津さんの呟きを冗談、若しくは照れ隠しと取って笑う。
まぁ、機会はいくらでもあるだろうし。
俺は「好き」って意思表示しているのだから、時間の問題だろう。
「伊原って、プラス思考だよな」
関心しきったような表情で、奈津さんがこちらを見ている。
「そうですか?」
よく言われる評価だけど、惚けて訊き返す。
自分ではあまり自覚ないんだけど、良くも悪くもそう言われる事が多い。
「うん。かなり羨ましい。オレはその逆だから」
「マイナス思考ってことですか?」
「そう」
特に気にしてる様子もなく簡単に頷く。
「良くない事ばっか考えちゃって、何か駄目なんだよな」
独り言のように呟いて遠くを見る。
その哀愁が、ちょっと愛しい。
「じゃあ、俺と奈津さんだったら、プラマイゼロで丁度いいですね」
「そーかなぁ」
「そうですよ!」
思いがけず会話が弾んで楽しくなる。
彼織さんの時は、なかなかこうはいかなかったからな。
やっぱり、俺には奈津さんの方が合ってるのかも。
「だから付き合いましょうよ、俺と」
「それは無理」
軽く傷付くくらいの即答だった。
「どーしてですか?」
絶対に両想いな筈なのに。
俺の視線に耐え切れなくなったようで、物凄く言いたくなさそうに口を開いた。
「……付き合ってる奴、いるから」
周りの喧騒に掻き消されてもおかしくはないくらいの音量だったけど、はっきりと聞こえてしまった。
「俺以外の奴ってことです、か?」
そんな訳がないと分かっていても、念の為確認を取る。
「当たり前だろ」
「えぇ!?」
「そんなに驚くなよっ」
と言われても無理だ。
「だって、俺の事好きなのに!?」
「だからそれは違うって何度も言ってるだろ!」
動揺して大声を発した俺に、奈津さんが慌てて怒鳴る。
言われたには言われたけど、完全に天邪鬼的な照れだと思い込んでいたからな。
にしても、奈津さんに付き合っている人がいるとは。
だけど、「彼女」とは言わなかったよな。
「付き合ってる奴」って事は、男?
あー……だったら、俺も可能性無くはないっぽい?
「分かりました。奈津さんは別れたいんだけど、相手がなかなか納得してくれないって事ですね」
我ながら、名探偵並みの推理力だ。
そういう事情なら、俺を好きだけど付き合えないってのも納得できる。
「全っ然分かってねぇだろ」
「大丈夫です、俺に任せてください」
「イヤイヤ、本当に違うから!」
自信満々の俺を必死に止める奈津さんの様子から察するに、相手は一筋縄ではいかなさそうだ。
森谷先輩の言っていた「番犬その2」ってそういう事だったんだな。
だけど幾らなんでも、弓月以上の危険人物なんて滅多にいないだろうし、何とかなるだろう。
早く話しつけて、奈津さんを自由の身にしてやるんだ!
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