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《番外》振り返らずに進め -12【伊原】

□ □ □ 「なっちゃん先輩の付き合っている人!?」  俺の質問を聞いた上野は、昼飯のやきそばパンを噴出しそうな勢いでそう叫んだ。  どうでもいいけど、俺に飛ばすなよ。 「おう。お前知らない?」 「何で!? 何で、そんな事知りたがんの!?」  手に持つパンを握りつぶしそうな勢いで喰いついてくる。  逆に、なんでそんなに驚くのか、こっちが訊きたい。 「奈津さんに訊いても教えてくれないんだよ。他に知ってそうなのって上野くらいだし」  話をつけるにしても、まずは相手を知らなければならない。  俺の周りでそんな事を気軽に聞けるのなんて、こいつくらいだ。  それに何より、知っていそうな確率が一番高い。 「……この疫病神が」 「何か言ったか?」  ボソリと聞こえた不吉な言葉を聞き返すと、上野はこちらを睨んできた。  こいつのこの表情も見飽きたな。 「知ってどうするつもりだよ」  さっきまでのワサワサとした様子が一変して、威嚇に近い低い声で言う。  こいつに威嚇されたところで、怖くも何ともないけど。 「勿論、奈津さんと別れてもらう」 「アホかっ!」 「はぁ?」  意気揚々と答えてやると、即座に不愉快なツッコミが入った。  真面目に考えている俺に対して失礼すぎるだろ。 「大体、どうして俺が知ってそうって思うかなぁ」  気を取り直して、という風に上野は独り言のように呟いた。  俺に対しての失礼な振る舞いはこの際目を瞑って、ここは俺の見事な推理力を披露してやる場面だ。 「俺が思うに、奈津さんの付き合ってる奴は柔道部!」  ビシッと言い放ってやった。  名推理を言ってやったというのに、上野のテンションは更に下がる一方だ。 「……そこに至る経緯は?」  頭を抱えるように上野が訊く。  その態度、かなりイラつく。  わざわざ訊かれなくても、これから披露してやろうと思ってたっつーの。 「だって、お前がやたらと柔道部を気にしてるし。それに、奈津さんも上野が柔道部だって知ってたんだよ」  今までの奈津さんや上野の話を総合して導き出した、何とも見事な結論だろう。  あまりにも見事すぎて、完全に参ってしまった上野は何も言えないでいるようだ。  追い討ちをかけるように、更なる深読みを披露する。 「どーせ、あの弓月って奴も柔道部だったとかなんだろ」  これに関してはただの勘だけど、自信は結構ある。  上野が一方的に弓月を知ってるのも、柔道部の卒業した先輩だからに違いない。  俺の邪魔をする理由もそれだろう。  部活の先輩の付き合ってる人に、クラスメイトが手を出そうとしたんだもんな。  ああいう体育会系は、凄まじい程の縦社会だろうからな。  後輩として止めようとするのも分かる。  我ながら見事な結論だと得意になって胸を張っていると、上野がじとっとした視線を投げてきやがった。  何やら異議がありそうだ。 「お前のその暴走気味の誤解を一個一個解いてくのは非常に面倒だから、大まかにだけ教えてやる」  我慢しきれなくなったらしい上野が、上からな感じで強めの口調で言う。  偉そうでちょっとムカツク。 「俺が柔道部を気にしてるのは、弓月もなっちゃん先輩の付き合ってる人も、柔道部でストレスを発散する傾向にあるからだ。伊原が藤堂先輩やなっちゃん先輩に手を出そうとすると、もれなく2人の機嫌は悪化して俺たちが被害を被る破目になるんだよ。俺はずーっと、それを恐れてお前の邪魔をしてきたんだ!」  口を挟む余裕もないくらい、捲し立てるように一気に言い放った。  最初から最後までが長くて、内容を理解するのに時間がかかる。  と言うか、理解するの面倒くさい。  だけど、何となく伝わってきたことがある。 「それじゃ、奈津さんの付き合ってる奴っていうのも弓月みたいなのか?」  2人とも同じ様な行動をするのだと恐れている上野の様子からは、そういう風に捉えられる。  けど、あんなのがまだこの学校に存在するって方が考え難いよな。  奈津さんの言葉を借りるなら、弓月は次元が違う。  けど、森谷先輩の言っていた「番犬その2」っていう表現も気になる。 「分かったら、なっちゃん先輩の事も早々に諦めろ」  考え込む俺に、上野の冷たい声が落ちた。  だから、それは聞き飽きたっつーの。

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