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《番外》振り返らずに進め2 -2
「それで? オレにどうして欲しいんだ?」
藤堂の鼻息がこれ以上荒くならないように、有島の要求を聞き出す。
用件を済ませて、早くお引き取り願わなきゃな。
わざわざオレの所に愚痴を零しにくるような奴じゃないから、何か目的があるに違いない。
「何とかしてください」
話が振り出しに戻った。
「何とかって?」
「追い払って欲しいんです」
「なぁーんで瀬口がそんな面倒な事をしなきゃならないんだよ。自分でやれ、自分で!」
横でイライラしながら話を聞いていた藤堂が、我慢しきれずに口を挟む。
オレも全くの同意見だから止めはしない。
ただ、もう少し穏便な言い方をしてくれるといいんだけど。
「だって、瀬口さんそういうの得意そうだし」
オレって、有島に随分と勝手なイメージを持たれていたんだな。
何をどう見てそう思ったのか、甚だ疑問だ。
「別に得意って訳じゃ……」
「そこの顔だけ先輩だって、瀬口さんに追い払ってもらったんでしょ」
有島は、オレの言葉を遮って顎で藤堂を指して言う。
完全にケンカ売ってるよな。
そんな態度を取られて、藤堂が怒らない筈がない。
「オレがいつ瀬口に頼ったよ!?」
「もうあいつの顔も見たくないんで、何とかしてもらえません?」
自分からケンカを売っておいて、有島は藤堂を無視して話を進める。
藤堂を軽んじるなんて、とても後輩とは思えない芸当だ。
「オレが言って、どうにかなるとは思えないけどなぁ」
伊原のどこまでも前向きな性格に、オレごときの意見を聞き入れる余地なんてない。
現に、藤堂の時も、オレの話になんて全く耳を貸そうとはしなかったし。
そうだよな。
伊原がオレの話をちゃんと聞いた事なんか一度も無いよな。
それなのに、どうにかしろなんて頼まれても困る。
有島の奴、オレへの嫌がらせでそんな事言ってるんじゃないだろうか。
という考えに及んだ頃、有島の思考も次の段階に進んでいたらしい。
「じゃあ、もういいです。瀬口さんがダメなら、誠人さんに頼みますから」
拗ねたようにそう言って立ち去ろうとするから、反射的にその腕を掴んでしまった。
「ちょっ……!」
「何ですか?」
有島が迷惑そうにこっちを見る。
藤堂程じゃないとはいえ、文句無しに美少年の範疇に収まる顔だ。
惚れっぽい伊原が付き纏うのも納得できる。
かくいうオレも、この有島の容姿には色々な意味で惑わされた事がある。
正直なところ、オレは、自分がカワイイと自覚しているこの後輩に、誠人に近づいて欲しくはない。
誠人は全く相手にしていないようだけど、2人が並んでいる所を見るだけでちょっと嫉妬するんだよな。
だって、有島は普段はこんな無礼な奴だけど、誠人の前だと本当にカワイイんだよ。
見た目だけじゃなく、あらゆる点において、オレに無いものを持っている。
自分と比べると、本当に落ち込むんだ。
だから、これから誠人さんの所に行きます、と宣言されて黙ってはいられない。
「ダメとは、言ってないだろ」
どうしてそこで誠人にシフトチェンジするのか訳が分からないが、誠人に相談されるくらいなら、自分がやった方が何倍もマシだ。
「何とかしてくれるんですか?」
「説得できるかは分からないけど、話だけなら」
「じゃ、よろしくお願いします」
それまで疑うような視線を送っていた有島が、手のひらを返したようにそう言って笑った。
こいつ、誠人の名前を出せばオレが引き受けると知ってやがったな。
「お願いしますじゃねぇーよ! 人にばっか頼んな!」
「藤堂さんに言われたくないです」
ふん、と有島がそっぽを向く。
「はぁ!?」
「周りにチヤホヤされてるのって、後ろ盾が怖いからだって気付いてないんですか?」
「何だよ、後ろ盾って!」
「あー、本当に分かってないんだ」
「そもそも、チヤホヤなんかされてねぇし」
きっぱりと言い切る所が凄いよな。
チヤホヤという表現が合っているかは分からないけど、藤堂の平穏な高校生活が弓月さんという後ろ盾があってのものだというのは確かだと思う。
当の藤堂にその自覚は無いんだろうけど。
「それも分かってないんですか? 瀬口さん、この人大丈夫なんですか?」
オレに振るな、有島。
話がややこしくなるから。
ただでさえ、お前の持ってきた問題で気が重いっていうのに。
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