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《番外》余談ですが「ネコ耳について」 -1

※サブタイトルを見て苦手そうだと思った方はご遠慮ください。 「なっちゃんてさ、塚本さんと最近どう? マンネリしてない? してるよな。そんなお2人にこれをあげよう」  突如としてやってきた吉岡眞白が、大概失礼な事を流れるように言ったかと思ったら目の前に理解し難い何かを差出てきた。 「藪から棒に決めつけんなよ。そして、何だよ……これ?」  時は授業の合間の休憩時間。  場所は教室の一角。  椅子から立ちあがった所で声を掛けられたオレは、人の席の正面に立っているシロの持っている物を見て固まった。  黒いカチューシャに、立体感のある三角の布が間隔を空けて2つ付いている。  布の外側は黒だけど、中は薄いピンク色だ。  漠然と、頭に付けるものなのだろうなと予想しつつ、嫌な予感に思わず後退さる。 「ネコ耳?」  自分で持ってきたクセに、疑問符を付けてシロが言う。 「ねこみみ」  復唱してみても、上手く頭に入ってこない。  確かに、猫の耳を模している。  毛羽立ったふわふわとしたそれは、手触りが良さそうだ。  しかし、学校(ここ)で見るにはとんでもない違和感がある。 「カワイイっしょ? 塚本さんも喜ぶと思うんだよね」  オレがドン引きしているのもお構いなしに、シロはネコ耳をこちらに押し付けながらいい加減な事を言ってくる。 「よく、意味が……」 「なっちゃんにネコ耳があったら、凄く喜ぶと思う」  困惑するオレに力説するが、一切意味が分からない。  待て待て。  そもそも、なんでネコ耳なんてものを持っているのかから説明が欲しいんだけど。  それから、オレに押し付けようとする理由も簡潔に述べよ。 「そもそも、ネコ耳って……」 「遠慮しなくて大丈夫。それ、俺も貰ったやつでさ、使い道ないから活用してくれそうな瀬口サンに差し上げようという優しさ的な」 「お前、さっきから何言ってんの?」  言動が勝手すぎる。  そして理解不能だ。  何となく伝わってきたのは、シロはオレがこのネコ耳を頭に付けると誠人が喜ぶのではないかというお節介な予想をしている、という事だ。  誠人が喜ぶ?  で?  ……イヤ、無いな。  予想も想像も妄想も、全てにおいて無い。  誠人がこんな萌え系アイテムでテンション上がる姿なんて、オレの脳内では再生不可能だ。 「あいつが、こんなもので喜ぶとは思えないけどな」  むしろ引くだろ。  あー。  ドン引きされる光景なら余裕で想像付くわー。 「それに、こういうのは、藤堂に付けた方が似合うと思うけど」  と言いながら、教室内にいる筈の藤堂を探してみたけど見付からない。  居たら付けてやろうと思ったのに。  空気を察して逃げたかな。  ミスコンの時のワンピースも嫌がっていたし、藤堂はこういうの嫌いそう。  でも、ワンピースを着せられるよりはマシだと個人的には思う。 「分かってないな」  藤堂を探す視界の端に、大袈裟に頭を振るシロが映る。 「カワイイものは藤堂に付けたらいいんじゃないかなんて安易だぞ。こういう物は、一見冴えないなっちゃんが付けてこそ、その真価が問われるんじゃないか」  言っている事は相変わらず意味不明なのに、物凄い説得力だ。  確かに、元々可愛いに定評のある藤堂にカワイイを上乗せしても大した効果はないかもしれない。  それに比べてオレだったら、ネコ耳の可愛さが先行して……それで、可愛くなるか?  そもそも、可愛さを手に入れる必要あるかな。  何かにつけてそう言ってくる誠人に、いつも「どこが」とは思うけど。  物理的にカワイイ物を付けるというのも、何か違うような。 「塚本さん、ドキッとして燃えるかもよ?」 「……は?」  一瞬、何の事か分からなかった。 「激しくなっちゃうかなぁ」 「お前な!」  ニヤニヤと笑いながら言われて、シロの下世話な思考が分かってしまった。  さらっとそういう事を言うなっ。 「これも持って行っていいよ」  怒鳴る前に手を取られて何かを握らされた。  この感触、覚えがあるぞ。  見てみると、そこにはシロがくれる物でお馴染みのコンドームが。 「何でいつも渡してくるんだよ!」 「えぇ!? いらないの?」  大袈裟に驚かれて、教室の注目を浴びてしまう。  そんなに大声を上げるなよ。  しかも、そういう反応をされると惜しくなってしまうじゃないか。 「……いらない事も、ない、けど」 「じゃ、どうぞ」  レジでお釣りを渡すようにそれを掴まされて、満面の笑みのシロからつい顔を逸らしてしまった。 「お前さ、誰にでもこういうの配り歩いてんの?」  掌の中のパッケージに目を落としながら、常々思っていた疑問を口にした。  こういうものが直ぐに出てくるのも凄いけど、他人に渡そうとする慈善の精神は一体何なのだろう。 「誰にでもって訳じゃないんだけど、必要そうな奴には積極的に」  おおぅ。  オレはその「必要そうな奴」に入っているのか。  今更隠すのは無理として、この上なく恥ずかしい。  ニヤリと笑ったシロが「もう一ついる?」と訊いてきやがったので、「もういいです」と断っておいた。  そして、気付けばネコ耳も自分の手にあったので、せっかくなのでシロの持論を試してみようかなと血迷ってみることにした。

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