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《番外》余談ですが「ネコ耳について」 -4
放課後、誠人の家にやって来たオレは、現在絶賛撫で回され中である。
「は、ぁ……あぅ」
着ていたものは手際よく脱がされ、全身を撫でられる。
口内も含めて、全身への執拗な愛撫で勃ち上がったオレ自身もそっと優しくしか触れてくれない。
横向きに寝かされて、片脚を上げた状態で誠人を受け入れ、硬くて熱いもので内壁もぐちゅぐちゅと撫でられている。
太腿を撫でるついでに舌を這わせ、オレが悶えるのを楽しんでいる。
凶暴なのにもどかしい動きに、無意識に腰が揺れる。
「んっ……あ、あっ」
もっと直接的な刺激が欲しいのに、誠人はあくまで「撫でる」という事に徹しているらしい。
これはこれで悪くは無いけど、悦すぎて変になりそうだ。
こんな所で有言実行しなくてもいいのに。
と言うか、挿れなくても撫でられるだろ。
そんな所まで指定範囲だったとは思いもしなかった。
まぁ、誠人は欲情を煽るような撫で方をするだろうから、結果は同じかもしれないけど。
大体、オレだけ裸に剥いておいて、自分は脱いでいないってどういう事だ。
ワイシャツの胸元が少し肌蹴ている程度で、寛げたズボンから局部だけ取り出してオレの中に収めている。
できる事なら、お返しに脱がせてやりたいが、生憎とオレにその余裕は全くない。
「ぁ、ああ……っ」
時々擦れる前立腺の刺激に身体を震わせながら、この優しすぎる行為に溺れかけていた。
「も……っと、おく」
「奥?」
思わず強請ったオレの要求に、誠人は嬉しそうに応えてくれた。
掴んでいたオレの脚を折り曲げて腰を寄せると、深い所まで進んでくる。
思っていたよりもずっと奥を刺激されて、それだけでイってしまいそうになる。
ちなみに、ここに至るまでに既に舐められ咥えられて一度出しているので、それがなければ確実にイっていた。
快楽から逃れるように布団に顔を押し付けても、背後から回された手が胸を撫で、吐息混じりの唇が耳や首を這う。
もう片方の手はオレの脚の付け根付近を触れてから、張り詰めた箇所へと移動した。
誠人に握られただけで、興奮が何段階も上がる。
手を上から下へと滑らせると、だらしなく漏れ出した液が濡れた音をたてた。
「や、ぁ……もっ、動いて?」
「動いてるよ」
確かに、誠人は動いている。
焦らすようにゆるゆると。
昇りつめるには絶対的に足りない程度で。
さっきからずっと。
「そん……な、じゃ、なくて」
「なくて?」
どうして欲しい、と指先で乳首を掠めながら、中を混ぜるように腰を揺らす誠人が囁く。
前と後ろのもどかしい刺激で、もう頭も身体も蕩けきっている。
早くこの熱を吐き出してしまいたい。
だけど、それだけじゃダメだ。
自分よりも、誠人に気持ちよくなって欲しい。
オレを好きって思って欲しい。
こんな事をするのはオレだけって。
ずっとずっと、オレだけを見ていてくれればいいのにって。
オレの欲求なんてそんなものだ。
口にする程のことでもない。
「まさと、は、気持ち、い……?」
「勿論」
即答かよ。
それなら、仕方ない。
「じゃ……も、少し、このままで、いい」
はぁ、と息を吐いて、身体の奥の方でざわざわしている快感を紛らわす。
お前が、こんな身体でもイイって思える奴で本当に良かったと思う。
だからあと少し、誠人が激しく打ち付けたくなるまで耐えてみよう。
その方が、オレもずっと気持ち良いから。
けど、緩くとは言え、中心を握られて上下に擦られてはあまり持たない。
せつない感情が集中するのを、何とか誤魔化そうと上体を捩る。
誠人に持たれている腰から下は諦めて、肘を付いて上体を支えると四つん這いのようになる。
そうなると、自発的に腰を揺らして快感を得ようとしてしまう。
「あっ、ぁ……」
耳に付く濡れた音がどこから聞こえるのか、なんて事が頭を過って更に興奮してしまう。
こんな痴態は、誠人の目にはどう見えているのだろうか。
考えたくない。
のに、背後から全部見られていると知っているから、誠人の表情を想像して泣きたくなる。
「……奈津」
吐息混じりの誠人の声が、オレの名を呼ぶ。
この声、好きだ。
声だけじゃないけど。
たまに、不意打ちでそう呼ばれるのが好きだ。
この瞬間だけ、特別な気がして。
きっと、誠人がオレをそんな風に呼ぶなんて、オレ以外は誰も知らない。
オレだけが知っていればいい事だから。
とろん、とした気分で惚気る。
それがまた気持ちいい。
背後で、バサッと何かが落ちる音が聞こえた。
「頼むから、そろそろ自覚して」
何の話を始めたのか分からず、振り向こうとしたけど機敏には動かない。
「な、に?」
「可愛いって」
当然のような返答に、一瞬思考が止まる。
「……あ?」
思ってもいない事を自覚しようがない。
訳が分からないでいると、ズズッと中のモノが出て行く寸前まで引き抜かれた。
その快感を引き摺るような摩擦に、声を抑える事ができない。
「ひあっ、ぁ、ああ……っ!」
「じゃないと」
ズン、と再び戻って来る際の衝撃には声も出なかった。
ガクッと腕の力が抜けて、再び顔が布団に沈む。
いつの間にかワイシャツを脱いでいた誠人が上体を屈め、力無く喘ぐオレの背中に覆いかぶさって肌と肌が汗で張り付く。
「ふ……ぁ、うぅ」
「危なくて帰せなくなる」
「んっ……?」
何を言っているんだ?
オレを本気で「かわいい」と言う奴なんて、誠人だけだろ。
他の奴らのそんな言葉なんて、ただの挨拶みたいなものだ。
聞き流す程度の価値しかない。
オレにとって一番危ないのは、本気でそう思ってくれるお前なんたけど?
でも、それもいいか。
このままここに閉じ込めてくれるなら、お前はずっとオレだけを見てくれるのだろ。
その代わり、邪魔になっても出て行かないからな。
激しく突かれながらそんな事を考えて、そのうち、そんな余裕も無くなって、全ての意識はただ求めるだけになっていった。
* * *
翌日、ネコ耳をシロに返却すると、少し不思議そうな顔をされた。
それから、面白いものを見つけたように笑う。
「耳だけ?」
何の事だろうかと首を傾げた。
返却するもの、他にあっただろうか。
「ゴムは?」
「はっ!」
訊かれて、思い出してしまった。
ネコ耳と一緒に渡されたものがあったじゃないか。
役に立って良かった、と微笑むシロを前にして、激しく動揺したのは言うまでもない。
「使ってないから!」
「え!? 使ってないの!? 身体に良くないよ」
「そっちじゃなくて、耳の方!」
慌てすぎて、否定が否定になっていない。
ネコ耳プレイはしていないが、ゴムを使用するような事は致しました。
という事情が、きっと伝わってしまった。
動揺中のこちらの様子を察しつつ「一つで足りた?」と朗らかに訊かれて、「お構いなく」と答えるのが精一杯だった。
ここで、シロから貰ったものは使っていない、なんて言ったらそれこそ墓穴の穴が大きすぎる。
そうして、ネコ耳は無事にオレの手から離れていったのだった。
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