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《番外》反省は誰のため? -4
誠人と森谷の謎の会話の内容を追求する間もなく、誠人に促されて帰路に着くことになっていた。
誠人に頼りながらうとうと歩いて、着いたのは塚本家の離れだった。
まだふわふわするような気がして、玄関の上がり框に腰を下ろした。
このまま、ぺたりと廊下に横になってしまいたい。
さすがに、人様の家でそんな事はしないけど。
のそのそと靴を脱いでいる間に、誠人は既に家に上がっていた。
一旦部屋の方に消えたけど、オレの動作が遅かった所為か、少しして戻ってきてくれた。
立ち上がろうとするオレを、支えるようにして手を貸してくれる。
「大丈夫だよ」と言っても、手は離してくれなかった。
そのまま寝室に通されて、敷いてあった布団の横に座らされた。
オレがあまりにも眠そうにしていたからだろうか。
寝て良いという事かな。
別に、床でも畳でもどこでも良かったんだけど。
でも、せっかくだからお言葉に甘えて…。
寝る準備の為にネクタイを緩めようとしたら、隣に座った誠人に抱き寄せられて若干バランスを崩した。
「わっ」
倒れ込むように誠人の腕に飛び込んで、慌てて顔を上げた。
こちらを見る目が、何か…怖い?
学食でもそうだったけど、全然楽しそうでも嬉しそうでもない。
いつもだったら、オレの情けない所「大好物です」って感じで笑ってるのに。
「機嫌、悪い?」
森谷と対峙していた時の、険しい表情を思い出したので訊いてみた。
偶然とは言え、森谷と二人きりになったのが良くなかったのかも。
あと、食べ物貰ったのも駄目だったかな。
でも、いくら森谷でも学食で何かしてくる事はないと思うんだ。
もうただの友達って感じで接してくるし。
心配する事なんて、無いんだけどなぁ。
と、誠人の様子を窺っていると、頬に手が触れた。
「瀬口の蕩けた顔、他の奴に見せたくなかった」
忌々し気にそんな事を言う。
意外だな。
誠人がそんな風に思うなんて。
だけど、何か勘違いしてないか?
オレ、蕩けた顔なんてしてないし。
してるとしたら、それは誠人の前だけだ。
「ん? でも、誠人じゃないと、とろけないよ?」
これ以上ない正論を言ったつもりだった。
だって、誠人もいないのにそんな状態になる訳がない。
頬に触れる誠人の手にすりすりと顔を寄せて心地よさを愉しんでいたら、何故か溜め息が聞こえた。
「なに?」
「まだ、酔ってるな」
いや、酔ってませんけど。
と反論する間もなく、腰に手を回されて更に密着する。
「まだ、キスしたい?」
鼻と鼻が触れるくらいの距離で訊かれて、ぼんやりと頷いた。
そうだった。
オレ、誠人ともっとキスしたかったんだった。
「ふ……ぁ」
顎を持たれて上を向かされ、深く口付けられる。
舌を吸われて、今はチョコが無いのに甘く感じるのが不思議だ。
「気持ちいい?」
とても近くで誠人の声がした。
「……ん」
訊かれたので素直に頷く。
誠人としてるのに、気持ち良くない筈がない。
「もっと、よくなりたい?」
「もっ……と?」
「そう」
くらくらする頭で、もっと気持ちいい事を考える。
なんて魅力的な質問なのだろう。
今でも十分なのに、「もっと」なんて贅沢だな。
頷いたら、くれるのかな。
だけど、オレだけこんなに嬉しくていいのだろうか。
今日はずっと、オレのしたい事をしてくれている。
誠人はいつも優しい。
たまにイジワルだけど。
でも、優しい方が多い。
どうしてそんなにオレに甘いのかな。
「まさと、は?」
オレばかりじゃ嫌だと思って訊いてみる。
どうせなら、誠人の気持ちいい事の方がいいと思うから。
「勿論、俺も」
一瞬、何かに驚いたよな顔をした誠人は、すぐに笑ってそう言った。
それなら良かった。
心置きなく気持ち良くなれる。
「ん、じゃあ、なりたい」
すっかり安心しきったオレは、大好きな大きな手に撫でられる幸せに浸りきっていた。
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