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《番外》反省は誰のため? -5
□ □ □
「………何故だろう」
全裸の状態でうつ伏せのまま、布団の上で頭を抱えた。
勿論、自分の布団ではない。
いつもの誠人の布団だ。
学食で森谷にチョコをもらって食べて、無性に気分が良くなって、何だかんだで今に至る。
記憶が無い訳じゃない。
全部覚えている。
ただ、ふわふわとした気分だったので、現実との区別があまりついていない。
「チョコに入ってたくらいの酒で、どうしてあんなになるんだろう」
今までにも、期せずして酒を飲んでしまいグタグタになってしまった事はあった。
だけど、今回は以前とは比べ物にならないくらい少量だった筈だ。
それでもグダグタになると言うことは、オレは相当弱いんだな。
何か、落ち込むなぁ。
「それは、俺が聞きたい」
同じく全裸で隣に座る誠人が、機嫌良さ気にそう言う。
「……ですよね」
オレの血中アルコール濃度事情なんて、誠人が承知している訳がない。
それでも機嫌が良いのは、きっとほろ酔いのオレが誠人好みの振る舞いをしたからだろう。
素面じゃ言えないような事も、グダグダ状態だと平気で言えるからな。
普段だったら羞恥心が邪魔をしてできないお誘いだろうと、何て事ないただの会話の延長でできてしまう。
アルコールが入ると、その辺りの判断力が鈍るのは何故なんだ。
しかもオレの場合、摂取量は関係ないらしいのが厄介だ。
「に゛ゃっ」
潰れたような声が出てしまったのは、完全無防備だった背中を誠人の指が撫でたから。
「やめ……」
ろ、と言う前に、片脚を抱えるように持たれて身動きが出来なくなった。
転がされて横向きになったと思ったら、覆いかぶさるように抱き締められる。
「ぁ……」
さっきまで深く咥えていた所を指先でなぞられ、腿には熱くて固いものが押し当てられてビクッと全身が震えた。
こいつ、いつの間にか復活してやがる。
オレの何を以てここまで興奮するのか未だに不明だけど、この熱さにすっかり慣らされてしまった身体にはとても魅力的に感じてしまうのも否定できない。
流されるのが癪で小難しい思考を巡らせようとしても、身体と一緒で内容はグダグダだ。
「可愛いな」
中の具合を探るように、いつの間にか埋め込まれた指を動かしながら誠人が言う。
そこは、もう誠人の形になっているから、そんな事しなくてもいいのに。
「あ、あ……ヤっ」
「でも、反省はして?」
耳元に落とされた言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
「はん……せい?」
何に?
「俺のいない所で、酒を飲んだこと」
あれは酒ではなくてチョコだ。
それと、飲んだのではなくて、食べたんだけど。
あと、最後の一粒はお前経由だったんですけど?
「さけ、って……」
「森谷に、警戒しなかったこと」
訂正しようとしたけど、低い声に鼓膜が襲われて何も言えなくなる。
怒っていたりします、か?
それは、自分でもちょっとマズいかなとは思っていた。
森谷と喋る事はそれほど駄目じゃないとして、酒が入っていると知ってチョコを食べたのがアウトなのだろうな。
でも、いくらなんでも、あの程度の量で酔うなんて自分でも知らないし……ってまた振り出しに戻ってしまった。
「ぃ……あ、あ、ああっ!」
ぐちゅぐちゅと音を立てて内側を擦られる。
イイ所も容赦なくされて、甲高い声が出てしまう。
「また、こんな事されたらどうする?」
「されてなっ……ぃ、ひっ、ぁ……ん」
とんでもない事を言われて否定しようにも、更に奥を目指す指の蠢きに翻弄されて上手くいかない。
「また」とか、本当に勘弁してほしい。
あの時は確かに危機一髪だったけど、後ろに関しては完全に未遂だ。
オレにこんな事をするのは、今までも、これからも一人しかいない。
のに……。
「瀬口?」
愉しそうに攻め立てる動きが止まって、心配するような声で呼ばれた。
その時のオレはぐしゃぐしゃに泣いていたから、さすがの誠人も焦ったように顔を覗き込んできた。
「……ばかぁ」
誠人の顔を見たら、そんな小学生のケンカみたいな言葉しか出てこなくて更に泣けてくる。
悲しいのと、憤りと、気持ちいいの感情が混ざってしまって、言いたい事の1mmも言えてない。
「ぅ……まさと、と……シてる、のに」
ぐずぐずになりながら、すすり泣きに一生懸命言葉を乗せる。
勿論反省はするけど、誠人の事しか考えたくない時に言うなんて酷い。
「他のヤツ…の、ことなんか、考えさせんなよぉ」
「うぇーん」と泣きたい衝動を抑えて言い切ると、何本か呑み込んでいた指が抜き去られた。
その何とも言えない刺激に「……ぁ」と声が漏れる。
もっと大きなものを求めていた筈なのに、それすら抜かれる喪失感に悶える。
「そうだな、ごめん」
横向きに寝ているオレの片脚を抱え上げながら、誠人が言う。
謝る言葉なのに、語調は楽しそうだ。
こいつ、またオレを虐めて喜んでやがるな。
「俺の事しか考えられなくするから、許して」
返答の間も無く、宛がわれたものがずずっと挿ってくる。
すっかり広げられたそこは、待ち侘びていたかのようにそれを呑み込む。
「あっ、あぁ……っ」
こうなってしまったら、許すも、許さないも無い。
自分を翻弄する男を見上げる余裕も無いから、ぎゅっと布団を握りしめながら、深い所で放たれるその時を焦がれていた。
ちなみに、一粒残ったチョコレートは、学食を出る前に誠人が食べたらしい。
「美味かっただろ?」と訊いたら、「その前に食べた方が美味かった」と言った。
同じものなのに変な事を言うな、と首を傾げるオレを見てニヤリと笑った意味に気付くのに少し時間が必要だった。
その感想は恥ずかしいから本当に止めて欲しい、という思いを込めて肩をバシっと叩いてやったのは言うまでもない。
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