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《番外》「と、いう夢を見た」鳥肌編 -1【藤堂】

※瀬口が高1の7月くらいの話です。  夏休み前。 ※前半、藤堂視点です。  どうした事か、鳴らなかった目覚まし時計の所為で寝坊をしてしまった。 「おはよう、彼織」 「……おはよう」  慌てて台所に向かうと、そこには既に(とおる)の姿があった。  何故か目玉焼きを作っている。  イヤ。失敗して、たった今スクランブルエッグになった。 「早く顔を洗って来いよ」  朝なのに、利はやたらと朗らかだ。  低血圧で、朝10時を過ぎないと(場合によっては10時以降も)やる気も会話も人間味もゼロで、眼で殺す勢いで意味もなく人を威圧するような奴なのに。  その上、エプロンをしているのはオレの気のせいではないようだ。  無駄にフリフリの白いそれは、以前にオレがプレゼントされて「誰がこんなの使うかっ!!」と投げ捨てたやつだ。  どこから拾ってきたのか知らないけど、破滅的に似合ってない。 「なんて顔してんだよ。俺だって料理くらいするんだぞ?」  オレの心を読んだようにそう言って、愛想良く笑った。  「だぞ?」って……誰だ、お前は。  料理以上にそのエプロンに恐れ慄いているんだ、オレは。  それに、料理なんてしねぇだろ。  食材をそのまま鍋に入れて蓋をすれば「出来上がり!」だと思ってやがるクセに。  卵をちゃんと割れずにグシャッと握りつぶすような人間が、そのフライパンの中の卵はどうやって殻から出したんだ?  オレの見ている前でもう一度やってみろ。 「もう少し時間がかかるから、先に飲み物でも飲んでろよ」 「の、飲み物?」  利の視線がテーブルに移動したので、つられてそちらを見ると、何やら怪しげな黄色い液体がコップに注がれていた。  何だ、あれは。  人の飲めるものなのか!? 「搾りたてのオレンジジュースだぞ」 「水でいい」  笑顔で説明する利に、反射的に拒絶の言葉が出ていた。  恐ろしい。  この家に、果物を搾ってジュースにできるような器材はなかった筈だ。  それじゃあ、一体何で搾ったんだよ。  手か!?  素手なのか!?  こいつなら十分あり得る。  そんなもの、起き抜けじゃなくても恐ろしくて飲めるかっ! 「リンゴの方が良かったか?」 「そういう問題じゃねぇ」 「彼織はワガママだなぁ」 「お前に言われたくねぇよ!」  そうこうしているうちに、ゴトリと目の前に黒い皿が置かれた。  黒い皿なんて食欲が失せるな、と思ってよく見たら、黒いのは皿じゃなくて乗っているものだった。 「ほら、出来たぞ。喰え」  上機嫌の利が差し出したのは、真っ黒に焦げた何か。  推定卵焼き。  最初は目玉焼きだった筈なのに、なにをどうしたらこんなに得体の知れない出来上がりになるんだ!?  大体、これは食えるのか?  絶対に食えない。  無理。  見た目で「不味い」って分かる。  湯気じゃなくて、煙出てるし。  口に入れても呑み込める自信がない。 「ちなみに、それ完食できなかったら……」  向かいの席に座りながら、相変らず笑顔の利が口を開く。  顔は笑っているのに、声が笑ってない。  器用な奴だな。 「ベッドに逆戻りだから」  どんな理屈だ。  つーか、どんな拷問だ。  こんな黒焦げの物体、完食なんかできる訳ねぇだろ、ばーか!!

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