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《番外》余談ですが「弱点について」
※時期は瀬口が高校2年生の、いつもの日常の話。
同じクラスの藤堂は、可愛い顔に似合わず性格がキツイ。
普段は柔らかめの口調も、ひとたび気分を害するとガラが悪くなる。
「いい加減にしろよ、このバカ!」
今日も遠くの方で藤堂の怒声が響いている。
相手はきっと弓月さんだ。
教室に近づくな、と言われているらしいけど、移動教室等で校内でばったり会うとこれでもかと言うくらい藤堂を構い倒すから、毎回滅茶苦茶怒られている。
自分に正直な暴れん坊で生徒たちが恐れる弓月さんに、「近づくな」とか「このバカ」とか言える藤堂は、実は校内最強なのではないかと思ってしまう。
「ちょっと触ったくらいでキレんじゃねぇよ。心狭すぎんだろ」
「何が『ちょっと』だ! 服の中に手入れるのは全然『ちょっと』じゃねぇよ」
「脱がせてないだけ感謝しろよ」
「そんな当たり前の事に感謝なんかするかっ。つーか、お前こそ訴えられないだけ感謝しろ」
確かに、服の中に手を入れられたら怒るな。
オレもたまにやられるから、その気持ちはよく分かる。
あれはびっくりして心臓に悪いから、つい文句を言いたくなるんだよな。
おまけに、触り方が妙にエロい時があって、本当に心臓に悪い。
ん?
エロくない触り方の時なんて無いか。
うん、無いな。
と、隣にいる誠人を見上げて心の中で密かに頷いた。
「まったく、ホントにバカっ!」
弓月さんを追いやってこちらに合流した藤堂が、吐き捨てるようにそう言ってオレの隣に並んだ。
教室に戻る途中の廊下を歩きながら、ブツブツと文句を言っている。
「藤堂って弱点なさそうだよな」
「は?」
「弓月さんにもあんな強気なの凄いし」
今のところ、弓月さんに逆らう人は見た事がない。
この藤堂以外は。
あの弓月さんに平気で「バカ」とか言える藤堂に、恐れるものなどあるのだろうか。
「それで弱点ないっていうの、違くない?」
不愛想にそう言って、ツンと顔を逸らした。
こういう、可愛気の欠片もない仕草が逆に可愛い感じが藤堂らしい。
「そうかもしれないけど、敵無しな感じするから」
「別に、バカにバカって言うくらい、何てことないだろ」
怒りの所為か、藤堂の歩く速度が少し早まって、置いて行かれそうになる。
誠人なんてさっきまで隣にいたのに完全に置いて行かれちゃっているし、付いてくる気もなさそうだ。
「オレにだって苦手なものくらいあるし」
「何?」
「人の弱みを探る前に、まずは自分のを言えよ」
ぽつりと呟いた藤堂の声が小さくてあまりよく聞こえなかったので訊き返したら、やけに偉そうな要求をされた。
別に弱点を探っていた訳じゃないんだけど。
「オレ?」
自分で言うのもなんだけど、弱点なんてたくさんある。
数学苦手だし、脚が多い虫もあまり得意じゃない。
ケンカは弱いし、すぐ顔に出るから嘘も吐けない。
むしろ、得意なものって何があるんだろうってレベルだ。
「うー……ん」
「マサくんなら知ってるんじゃない?」
話が逸れた所為で機嫌が良くなってきた藤堂は、悩むオレを放って、ようやく追いついた誠人を見上げて可愛く小首を傾げてみせた。
イヤ、おい。
彼織ちゃんのそれはマジでヤメテ。
めちゃめちゃ可愛いから。
わざとだろ。
お前、自分の顔面知らないとは言わせないからな!
「瀬口の弱点て何?」
ついさっき「人の弱みを探る前に」的に事を言っていたクセに、お前はオレの弱点を勝手に探るのかよ。
と、文句を言ってやろうとした矢先の事だった。
ふわりと首に何かが触れたかと思ったら、ツツーっと肌の上を柔らかく滑る感触に襲われる。
「首筋」
「ぎゃっ!!」
思わず、悲鳴のような潰れた声が漏れた。
何事かと思ったら、横に立つ誠人の指が首をなぞっている感触だった。
「耳?」
「ぅあ……っ!」
加えて、耳朶に押し付けられる唇の感触。
そして甘い声。
背筋にゾクゾクッと何かが走って力が抜けそうになるのを見越していたかのように、腰に回された手にホールドされる。
ナニかが始まりそうな体勢と雰囲気は非常にマズい。
ちょっと、待て!
学校の廊下で何してくれてんだ、こいつ。
「脇ば……」
「いい加減にしろっ!!」
更に脇腹を撫でてくる手に焦って、反射的に脚を蹴って逃げた。
あっさり離してくれたから簡単に抜け出せたけど、触れられた所と心臓が熱くて辛い。
「痛い」
誠人は、オレが蹴った脚を擦りもせずに、口だけはそう言って笑う。
相変わらず、全く痛くも痒くもなさそうな様子だ。
揶揄うにしても、時と場所を考えろよ。
そしたら、オレだって逃げたりなんてしないのに。
「マサくんて、本当になっちゃん大好きだよね」
「どこが!?」
ふーっと気持ちを落ち着かせる為に深く息をした所に、楽しそうな藤堂の声が聞こえて思わず叫んでいた。
その「好き」は純粋なやつじゃなくて、困っているオレの面白い反応を見るのが「好き」なだけかもしれないぞ。
「今、すっごい輝いてた」
確かに、さっきの誠人は輝いていた。
実はオレを追い詰めるの好きみたいだし。
オレも毎回律儀にドキドキしてしまうし。
でも、ご機嫌が直った藤堂の瞳の方がキラキラと輝ていている、とオレは思う。
一体何がそんなに嬉しいんだよ。
つーか、元々は藤堂の話だったんだぞ。
どうしていつもいつも、オレの話に逸らされてしまうんだろ。
不本意だなぁ、と思いながら誠人を見ると目が合って微笑まれた。
「好きだよ」
「ぅ……っ!」
だから、その顔をヤメロって。
無駄にドキドキさせんなっ。
学校の廊下だぞ。
これから授業あるんだぞ。
どーしてくれるんだよ、と抗議の視線を送りながら、余裕綽々な誠人の弱点を聞き出す方法を思案していた。
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