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第2話

お互い話が出来ぬまま出社。僕はいつものようにお店で午前中の仕事を終え、コーヒー片手に休憩室の椅子に溜息混じりに腰を下ろした。 「なんだ元気ないな」 「て、店長……」 タイミングよく入って来たのは店長の橘さん。仕事もできて皆からの信頼も厚い。僕は慌てて立つと、店長は笑って僕の横に腰を下ろした。 「午前中も元気なかったな? もっと喜んでると思ったのに」 「え……」 何故そう言われたのか直ぐに理解する。この仕事をしていると、同性同士のカップルって実はあまり珍しくない。最初は勿論話せなかったけど、色々相談に乗ってもらう内に、僕は優真との関係を話していた。 「ニュース俺も見たよ、するんだろ?」 「…………」 店長の問に素直に返事ができない。何故? あんなに夢見た未来が直ぐそこまで来ているのに、僕の気持ちはモヤモヤしている。 「マリッジブルーみたいなもんか」 明らかに戸惑った僕を見ても、店長の顔は穏やかで優しい。 「あれだろ? いきなり出来ますなんて言われても頭がついて行かないんだろ」 確かにそう……。いくら昔より認知されてきているとは言え、まだまだ日本では批判的な意見も多い。 「……正直、不安なんです。本当に優真にとって僕でいいのか……今更だけど、結婚なんてそんな未来、選んでいいのか……」 「なんでだよ? 今までどんなに辛くても二人で生きてきたんだろ? お前大事にしてんじゃん、四つ葉で作った指輪」 四つ葉……。高校に入った頃、優真は僕の左手にクローバーで作った指輪をハメてくれた。その時言ってくれたんだ。 「俺がお前を守る、これからずっとお前の側にいて、いつか……俺と家族になろ……」 きっとものすごく考えて、悩んで優真はそう言ってくれたんだと思う。優真は両親を知らない。生まれてすぐに施設の前に置き去りにされていたと聞いた。だから名前も役所が付けたもの。僕は両親の記憶はある……。ただ母親に捨てられた。当時六歳。 でも内気だった僕と違って、優真はいつも明るくて前向きで、心無い虐めに遭った時も全力で僕を守ってくれた。一緒に泣いて、悩んで、時に喧嘩して……。いつしか僕達は友情を超え、特別な関係になっていった。 「彼に話したら? 今思ってる不安も、描いている未来も、きっと全力で応えてくれるよ」 本当に店長は大人だ。不安そうな顔でいる僕の髪を、店長はくしゃくしゃ撫でて軽く肩を叩く。 「大丈夫、お前らなら」 僕は店長の励ましに涙を堪え、はい……そう小さく返事をした。

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