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第5話

「ああ、ありがとう」  司は自分から、正平に抱き着いた。今後も不安に思うことはあるだろうが、今は、愛しい存在に全面的に縋り付いてしまいたかった。感じる体温に、少しの間安堵していると、ふいに力強く抱きしめられる。 「あんまり、可愛いことするなよ」  身長差があるせいか、上から耳元で囁かれた後、響くリップノイズ。腰にくる低音と、甘い感触に司は力が抜けてしまい、ただ身を震わせることしかできない。それに気を良くしたのか、頬に、鼻に、口付けが送られる。 「あ……ちょっと、待てって」 「煽ったのはそっちだろ」  文字通りというか、何というか。司は正平から口封じを受けてしまった。反論することすら許されず、口内を蹂躙されてしまう。時間にしていえば、わずかな時間だが、動揺のあまり呼吸の仕方を忘れてしまった司からすれば、長く感じられた。唇に噛みつかれ、舌を吸われ、それは友愛の口付けではなく、性愛の意味を存分に匂わせていた。  腰を支えていた正平の手が、するりとその下へ移動するのを感じ、司は初めて大きな抵抗をした。それを受け、流石に驚いたのか正平の動きが止まる。 「その、今日、こういうことすると思ってなくて……。風呂、まだ、だから」 「それ言ったら、俺もそうだ」  そう言って動きを再開しようとする正平に、司は絶望する。酸欠気味で思考が上手く回らない状況では、上手い言い方が見つからない。だが、このまま流れに任せるわけにはいかなかった。 「準備、いるんだよ!ばか!」  思いのほか大きい声になってしまい、司は赤面する。具体的な表現は避けたが、ここまで言ってしまっては、もはや全て語ったも同然であった。 「あ、ああ、悪い」 「……こっちこそ、大きい声を出して、すまない。ちょっと、待っててくれないか」

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