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 半ば溶けていた意識は、靖満のペニスを抜かれることで輪郭を取り戻した。  いっぱいに頬張っていたものがなくなって、リーネは何とも言えない寂しさを覚える。もっとしゃぶっていたかったのに、と思ったが、身体が気怠くて声を出す気にもならなかった。 「……大丈夫?」  声とともに額を撫で上げられて、ぼんやりと見上げると、もう欲情の色のない靖満の目が自分を見下ろしていた。 「あ……はい……」  何が大丈夫なのかもよくわからないまま答えると、靖満は複雑そうな顔をして、それからティッシュに手を伸ばして自身ばかりでなくリーネの尻や下腹部も拭ってくれた。そうやって後始末をされるのは恥ずかしかったけれど、靖満の手付きが丁寧で優しくて拒む気にはなれなかった。 「はぁー……」  長く息をつきながら、靖満が隣に横たわって、リーネはついまじまじとその顔を見てしまった。黒い髪は乱れていたけれど艶のある直毛で、睫毛もくっきりと目を縁取っている。整っているが彫りが深いというわけでもなく、日本人らしい顔立ちだと思った。そして肌はおそらく白い方だろう。髪や目が黒い分、モノクロの静けさを感じさせた。  見ているうちに目が合って、靖満は少し言葉に迷うような様子を見せてから、言った。 「……お腹いっぱいになった?」  リーネは瞬く。今しがた注がれたばかりの精を意識すると、甘い気持ちが湧いてきて、どんな態度を取ればいいのかわからなかった。 「あ……の……満腹ってほどじゃないですけど、落ち着きました……。……ありがとうございます……」  靖満は苦笑して、リーネの前髪に触れてきた。 「……雑なヤリ方して、礼言われるの複雑だな……」  靖満の言葉の意味がわからなくて、リーネはきょとんとする。靖満もそれに対して、何故そんな目で見られるのかわからない、という顔をした。 「あ、えと……俺、その、人間の普通のえっちはよくわからなくて……。……何か、変でした……?」  リーネが言うと、靖満はしばらく真顔でリーネを見つめてから、困ったように笑った。 「いや、俺は……めちゃめちゃよかったから……りいねが嫌な思いしてないなら別に……」 「そんな、俺、初めて人間の男の人とえっちできて、精子出してもらえて、すごく感動してるのに」  靖満はやはり妙な顔をして、何も言わずに突っ伏してしまった。そこまでおかしなことを言ってしまっただろうか、と思っていると、ぼそりと靖満の声が言った。 「…………やっぱ淫魔ってマジかぁ」  リーネは一瞬肯定するのをためらったが、自分で散々言ってしまったことを思い出して、おずおずと訊いた。 「えっちしてもわかりませんでした? 人間と違うって……」  靖満は難しい顔をして、観念したように言った。 「正直……ヤッてるときはマジで淫魔だって思った。びちょびちょに濡れてるし、ケツの中すごかったし、いい匂いするし……」  そう言ってから、靖満は頭を抱えるようにして、もう一度、マジかぁ、と呟いた。 「……その、淫魔って言っても、精子を栄養にするだけで、何も悪いことしないですよ」  言い訳がましいと思いつつそう言うと、靖満は首を振って、ため息をついた。 「そうじゃなくて、その……罪悪感を誤魔化そうとしてる自分がヤになってるだけ……」  靖満の言葉に、リーネは目を丸くして靖満を見つめた。 「罪悪感って、俺にですか?」  靖満は頷く。リーネはしばらく言葉を失ってから、そっと靖満の手に触れた。 「あの……人間にとってえっちは特別な意味があるっていうのは知ってますけど、その、俺は淫魔だから、人生で初めてのご馳走食べさせてもらえて、すごく嬉しいですよ……?」  靖満の黒い目がリーネを見る。ふと、ゆうべ路上に座り込んでいたときのそれを思い出した。 「……あんた、すごいモテそうだけど、なんで俺が、……その、人間の中では初めてだったの」  リーネは戸惑う。コンプレックスを言葉にするのは、相手が誰であれ簡単ではなかった。 「……お、俺、人間が怖くて……その、人間とえっちする勇気がなくって……。……だから、靖満さんはすごく例外って言うか、初めてです……怖いって思わずに済んだの……」  目を合わせるのは気まずくて、靖満の顔から目を逸らしてしまったので、その言葉を靖満がどんなふうに聞いたのかはわからなかった。  沈黙の後に、ふ、と短く笑うような吐息が聞こえて目を向けると、靖満は苦笑してリーネを見ていた。

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