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「……あんたにとっては、いい経験になった?」
靖満の問いかけにリーネは瞬き、それからこくこくと一生懸命に頷いた。靖満とのセックスはたまらなく気持ちよかったし、初めて味わう精液は今もリーネの中を満たして酔わせていた。
「じゃあ……よかったかな。俺に付き合わせて、傷付けないで済んだなら……」
靖満は静かな声で言ったが、そこに寂しさを覚えないほどリーネは鈍感ではなかった。そもそも今彼がここにいるのは、彼が一人になることを厭ってリーネの腕を放さなかったせいだ。
「……あの、靖満さんは、俺といて、一人でいるよりマシな気持ちになれてます……?」
そっと訊くと、靖満は痛いところをつかれたという顔をして、頭を掻いた。
「ああ、それ……その、俺、他には何も言わなかった?」
「ゆうべですか? ……別に、特には……俺が聞き取れなかっただけかもですけど……」
そっか、と靖満は呟いて、少し考える間を置いてから、リーネの目を覗いてきた。
「その、うっとうしかったらもう帰るし、……そうじゃなかったらもうちょっと付き合ってもらってもいい……?」
そう問いかけられて、リーネは焦る。人間とまともに関係を築いたことのないリーネには、それは解釈の難しい質問だった。
「あ、え、えと、うっとうしいとかは全然ないんですけど、その」
リーネの動揺は察するまでもなかったのだろう。靖満は丸い目をして、少しばかり笑った。それを見てリーネはますます焦り、何を言えばいいのかわからないまま言葉を継いだ。
「あ、や、あの……俺……中に出してくれたのほんとに嬉しくて……な、何言ってるんだろうごめんなさい……」
靖満はそれを聞くと、笑いをこらえるような顔をしてから、初めて見る朗らかな目をして言った。
「いや、そんなの謝らなくていいし……すげえこそばゆいよ」
「え、えと……」
リーネが反応に困っているうちに、靖満の手がリーネの頭を撫でて、離れていった。もっと撫でてくれていいのに、と思ってから、リーネは自分の思考に混乱する。
「ゆうべは、ほんと馬鹿な飲み方したし……そもそもほんとに馬鹿だったし、反省する……」
独り言なのか、話し掛けられているのかわからなくて、靖満の目を見つめると、靖満はしばし言い淀んでから、振られたんだよ、と言った。
「一応彼氏だったんだけど、好きだったわけじゃなくて、お互い試しに付き合ってみて好きになれたらラッキー、ぐらいの感じで付き合い出して……でも好きにはなれなくてどうすっかなって思ってたら、他に好きな人ができたって振られて……それでヤケ酒っておかしいよな」
「……」
「何で自分だけ恋愛してるんだよって腹が立って……すげー理不尽だしすげー馬鹿……。……そんな昨日の今日であんたのこと抱くの最低じゃね? って思って……そういう罪悪感だったんだけど……。……詫びで足りなかったら何でも言って」
困ったように笑う靖満に掛ける言葉の正解がわからず逡巡しながら、リーネは靖満の手に触れた。
「俺……恋愛したことないんで、何にもちゃんとしたこと言えないんですけど……靖満さんがあそこであのまま寝ちゃって風邪引いたりしなくてよかったです……」
靖満は目を丸くしてリーネを見返し、それから声を上げて笑った。
「はは、いや、ごめん。それじゃあんた淫魔どころか天使じゃん」
「へっ?」
「あー、ごめん、まだ酒抜けてないのかな。俺だいぶおかしいよな」
眉を下げる靖満に、リーネは言葉が見つからなくなる。黙って見つめるばかりのリーネに、靖満はためらいがちに言った。
「あんたみたいなキレーな子にやらしーことねだられて、優しくされたら……俺なんか簡単にその気になるからさ……。……正直もう勘違いしかけてるから、これもう帰った方がいいやつ……」
えっ、と声が出てしまうのと、靖満の腕をつかんでしまうのとは同時だった。あまりにも露骨な反応だ、とすぐに自分で恥ずかしくなって、リーネは手のひらにじわりと汗をかくのがわかった。
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