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「あ、あ、あの……」
しどろもどろになってリーネが言葉を紡ごうとするのを、靖満はじっと見つめて、やがてはにかむように笑って言った。
「別に焦んなくても、俺急いで帰りたいわけじゃないから……」
気を遣われたと思うと恥ずかしかったが、リーネはおかげで少し落ち着きを取り戻す。靖満の目が穏やかなことに励まされて、口を開いた。
「あの……また俺に精液くれませんか……?」
自分で言った言葉に、心臓がどくどくと強く鳴った。靖満のペニスで中に先走りを塗りつけられて、奥に精を吐き出される感覚が脳裏に蘇って、それだけで身体が熱くなる。
「……またセックスしたいってこと?」
「お、俺、ほんとに今までずっと人間が怖くて……精液ほしくても怖いからえっちできなくって……なんで靖満さんのことは怖くないのかわかんないですけど、靖満さんの精液、ほんとに美味しかったし、俺ももう友達に頼らないでご飯食べられるようになりたいから……。だから……だめですか……?」
靖満はしばらく驚いたような顔をしていたが、顔を近付けてきて誰が聞いているわけでもないのに声の調子を落として言った。
「……その、それ、気になってたんだけど、友達に食べさせてもらうって、友達に中出ししてもらってるってこと……?」
靖満が何故そんなふうに訊くのかわからないまま、リーネは頷く。靖満はリーネを見つめた後、突然両腕で強く抱き締めてきて、リーネはぎょっとしてしまった。
「はあ……淫魔ってほんとえろい……」
ため息混じりにそう呟かれて、リーネは何と言っていいのかわからず、恐る恐る靖満の肩に触れた。
「……や、靖満さんが……俺に精子くれるなら、俺、もう友達とえっちしなくてもよくなります……」
はあ、と靖満はもう一度大きく息を吐いて、熱っぽい目でリーネの目を覗き込んできた。
「そんな可愛い顔でえろいことばっか言われるのほんとにやばいんだけど……、食事なら毎日中出ししないといけないんじゃないの」
「え、あ、その……人間に直接中に出してもらえるなら、毎日じゃなくても大丈夫なはずです……」
「そうなの? じゃあ日に何回もしたら食べ過ぎってこと?」
何回もしてもらえるのだろうか、と期待で疼いた胸を抑えながら、リーネはたどたどしく説明を試みる。
「えっと……淫魔の食事は人間の食事とはちょっと違ってて……命そのものを足してもらってるっていうか……食事はエネルギー源っていうより体力とか生命力そのものを補給する感じなんです。えっと、寿命って言った方がわかりやすいかも……?」
「……じゃあ、さっきりいねはリアルに死にかけてたわけ?」
「そ、そこまでじゃなかったですけど……あの、淫魔は人間の精液を注いでもらうことで若さとか美しさとかを保つんです。だから、本当に食事ができないと、人間で言ったら餓死じゃなくて老化して死んじゃうみたいな……そんな感じで……」
靖満は目を丸くしてリーネを眺めた後、おもむろにリーネの髪をかき上げて顔をまじまじと見つめながら言った。
「……それじゃあ、もし俺がりいねにたくさん中出ししたら、りいねはもっとキレイになったりするわけ?」
間近な視線にいたたまれなくなって、リーネは目を泳がせながら答えた。
「か、髪とか肌は、もしかしたらキレイになるかも……です……。友達……えっと……いつもたくさん食事してる友達は、俺よりずっと髪もツヤツヤだし肌もすごくきれいだから……」
「…………それは見たいな」
「お、俺の友達をですか?」
違う、と、靖満は何故か不服そうに眉間に皺を寄せて言った。
「りいねが俺でキレイになるの見たい」
はっきりとそう言われて、リーネは声を失った。それはまたリーネに精液を与えてくれる──しかも靖満の積極的な意志で──という意味に思われた。
心臓がどくどくと鳴って、リーネは言葉もなく靖満を見返す。靖満の体液の美味しさと、交わりの快感をまた味わうことができるのかと思うと、期待で胸がいっぱいだった。
「……俺、好きでもない男に振られて酔い潰れるような男だし……流されてあんたのこと抱いたけど……そんな男の精液でもいいの?」
確かめるように訊かれて、リーネは切なさをこらえながら言った。
「そんなの、だって、俺、靖満さん以外の人間とえっちできないから……靖満さんがいいです。靖満さんが俺に誘惑されてくれなかったら、俺、これからもずっと友達に頼るしかなくなる……」
すがるように言ったリーネに、靖満は短く、そっか、と呟いて、また両腕でリーネを抱きすくめた。
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