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リーネはもう胸や目頭や色んなところが熱くて痛くて、とてもおとなしく座ってなどいられなくて、靖満に強くしがみついた。
「り、りいね」
「ごめんなさい、靖満さんが俺に優しくしようとしてくれてるのわかります。すごく嬉しいし、俺、俺もちゃんとしなきゃって思うのに、でも、俺、淫魔だから、靖満さんが俺のこと喜ばしてばっかりだから……っ」
りいね、と靖満はまた名前を呼んで、リーネの顔に手を添えて目を覗き込んできた。泣きそうな顔を間近に見られるのは恥ずかしかったけれど、靖満の目を見返して、リーネは言う。
「俺、淫魔です。靖満さんの精液いっぱい欲しい……中にいっぱい出してほしいです。靖満さんの家で、靖満さんが出す精液全部もらえるなんて、俺そんなの夢みたいで、嬉しくてどうかなりそう……」
胸がいっぱいで苦しくて、どうすればそれを吐き出せるのかもわからなくて、リーネは本当に泣いてしまいそうだった。靖満を困らせたくなかったけれど、自分を取り繕う余裕などなかった。
靖満は目を見開いてリーネを見ていたが、やがて熱い手でリーネの頬に触れてきた。
「……ほんとに嫌じゃないの、りいね」
「何を嫌がったらいいんですか? 靖満さん、俺が得することしか言わないじゃないですか……」
「俺以外の男がりいねに触るだけで怒るの、めんどくさくない? 友達とセックスされるのもイヤなんだけど」
「靖満さんが精液くれるなら、俺、他の誰ともセックスする必要ないです。俺の家族とか、友達とかが、俺に触るのも怒りますか?」
「家族とか、そういうのは……その、別だよ。そういうのじゃなくて、りいねの身体目当てのやつには触らせたくないし、さっきみたいな強引なやつらもいるから……、俺、部屋から勝手に出ないでほしいぐらいなんだけど……」
リーネはぐすりと鼻を鳴らす。涙が滲んでしまうのはどうしようもなかった。
「部屋って、靖満さんの部屋ですか……?」
「まあ……そう……」
「俺、今だってあんまり部屋から出ないです。買い物とか、用事があるときしか出かけないし、ほんと言ったら、一人で外に出るのあんまり好きじゃない……」
「……そうなの?」
リーネは頷く。情けない姿を見せている、と思ったが、涙をこらえるだけで精一杯だった。
「だって、外、人間ばっかりだし……。俺、淫魔だから、何もしなくてもすぐ男の人その気にさせちゃって、声掛けられたりするし、怖いです……」
靖満は何か言いかけて、結局唇を結ぶと、両腕でリーネを抱き締めてきた。その腕の力が心地よくて嬉しくて、リーネは靖満の背中を抱き返す。
「……りいね、何で俺のことは怖くないの」
「わかんないです……」
「俺のうちに来てって言ったら来るの? 俺が俺の都合だけでりいねのこと好き勝手に犯してもいいわけ?」
声を出したら涙があふれそうで、リーネはこくこくと頷く。すると鼻先が触れそうな距離で靖満が顔を覗いてきて、頭に手を添えられて逃げられなくなった。
「……りいね、ほんとに何言われてるかわかってる? 俺、すげーひどいこと言ってんだけど」
リーネは首を振る。とうとう涙がこぼれて落ちた。
「人間にとったらひどいことかもしれないですけど、そんなの俺わかんないです。俺人間じゃないし、靖満さんの精子が捨てられる方がヤです。……それとも靖満さん、俺に痛いこととか怖いことしますか……?」
「……暴力ってこと? そんなのしないよ……別にSM趣味もないし……」
靖満は息をついて、リーネの濡れた頬を指で拭ってくれた。その手付きの優しさと温度に、リーネはひどく安心してしまう。セックスするだけでなく、この腕にすべて任せて眠ってしまいたいと初めて思った。
「……俺、靖満さんがいいなら、掃除とか洗濯とかします。料理はできないけど、洗い物とか、飲み物作ったりとかなら、今も友達のうちでそうしてるし……」
靖満は瞬いてリーネを見て、そして深くため息をついた。
「…………そんなこと言われたら、俺、本気になるんだけど……」
どういう意味かわからなくて、リーネは靖満の表情を窺った。困ったような、呆れたような、そして少し照れたような、複雑な表情だった。
「……本気じゃなかったんですか?」
おずおずと訊くと、靖満は苦笑してリーネの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「こんな噛み合ってないのに、そんな可愛いのずるくない? ……ほんと、俺りいねに全部搾り取られるかも……」
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