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リーネは確かに靖満の言葉の意味があまりわからなかったし、靖満もリーネの感性を理解できないらしかった。
それでも靖満が笑うと嬉しくて、優しくされると胸が温まって、見つめられて触れられるだけで身体が熱を持ってどうしようもなく濡れた。
「……りいね」
靖満が顔を寄せてきて、首に唇が当てられた。靖満の髪が耳をくすぐって、思わず声が漏れてしまいそうになる。
「やっぱりすごいいい匂いする……。ずっと可愛くてやらしー顔してるし、俺に閉じ込められてもいいみたいなこと言うし、俺がほんとに放せなくなったらどうすんの……」
靖満の手が、明らかにそれとわかる意図でリーネの腰を撫で始める。リーネは濡れていく己の身体をどうすることもできずに、声を震わせた。
「お、俺……靖満さんが俺にいっぱいご飯食べさせてくれるなら、俺にできることで返したいです……だから、その…………」
何も気にしないで、好きにしてほしい、と伝えたかったが、靖満の愛撫で頭が溶けてしまいそうで、うまく言葉にならなかった。
しかし靖満はどういうわけか、ふ、と笑って、リーネの顔を覗いてきた。
「いくら俺が食わせる商売だからって、淫魔のお客ができるとは思わなかったなぁ」
「ふぁ……?」
間抜けな声が出てしまって、リーネは恥ずかしくなって口を押さえる。それを見て靖満はくつくつと笑った。
「あ、あの……靖満さんて、カフェ? でお仕事してるんですよね……? ごめんなさい、俺お店の名前見ても全然わからなくて……」
靖満は笑みを柔らかくして、リーネの頬を撫でた。
「そりゃ、外食なんかしないんだから知らないだろ」
「……靖満さんは、何のお仕事してるんですか……?」
「俺はキッチン……調理師だよ」
靖満はずっとリーネの頬を撫で続けていて、あまり話題には関心のない様子だったが、リーネはぱちぱちと目を瞬いた。
「えっ……えっ靖満さんがお店の料理作ってるんですか?」
「ん? うん」
じわ、とリーネの胸に不思議な感情が滲んで沁みた。食事をしている靖満の姿にも欲情したが、靖満の作った料理が日々多くの人間に食べられているのだと思うと、それは靖満への尊敬の念と不特定多数への嫉妬を呼び起こして、どんな顔をすればいいのかわからなかった。
「りいね?」
「…………俺、淫魔じゃなかったら、靖満さんの料理も食べられたのに……」
靖満の精液だけで充分だと、それ以上に望むものなど何もないと思っていたのに、リーネは己の声が落胆の色もあらわであるのを自覚しながら、平気なふりもできなかった。
靖満は驚いたように目を丸くしてリーネを見つめ、それからくしゃりと笑った。
「どんだけ俺の食べてえの」
「だって、靖満さんの料理をみんな美味しいって思って、靖満さんの料理がその人達の身体の一部になるんでしょう? そんなの、俺、すごくうらやましいです。俺もたくさん食べたかった……」
靖満は目を細めて、リーネの頭を撫でてから、両腕で包むように抱き締めてきた。
「いい子だなーりいねは……」
「は……?」
「アイスとか、スープとか、液状のものなら人間と同じの食えるんだろ? 塩分控えれば、甘くなくても平気なんだよな?」
「は、はい……」
「りいねにも今度何か作るから、そんな悲しい顔しないで食ってよ」
そう言って靖満はリーネの目許に唇を当てた。それは次の──しかも夢のように素晴らしい──約束に思えて、リーネはまた動悸を覚える。
「……靖満さん、そんなの、俺、靖満さんにもらってばっかり……」
立つ瀬がないと思って呟くと、靖満は少年のような笑みを覗かせてリーネの目を見つめてきた。
「その分俺がりいねを食べるからいいんじゃね?」
その意味をリーネが飲み込むよりも早く、靖満の指がリーネの尻を撫で、奥の穴に触れてきた。
「あっ……!」
止める間もなく、靖満は指先を中に滑らせてしまう。とろりとぬめるものがあふれ出たのがわかって、リーネは顔を伏せた。
「すっごい……もうびちょびちょ……」
リーネは震えながら靖満のローブにしがみつく。ずっと靖満が欲しくて疼き続けていた場所を靖満にいじられることは、嬉しいよりも何故かひどく恥ずかしかった。
「りいねの身体、俺の好きにしていいんだよな?」
耳元で声を吹き込まれて、リーネは背筋にぞくぞくとした快感を覚えながら、ただこくりと頷いた。
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