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第10話
大澤にもらった(というか押し貸しされた)体操服を着て、グラウンドに出る。
ほとんど着てないというのは本当らしく新品同様だった。タグは165センチとついていた。大澤は中学入学時にそのサイズで、それがすぐに着られなくなったということに一瞬むかっとする。
150センチの祐樹には大きいが借りものなので仕方ない。多少だぶっとしていても体操服なのでかまわないと割り切った。
「え? ちょっと、姫、それ大澤先輩の?」
体操服には刺繍で名前が縫い取ってあるから、胸には大澤とネームが入っている。誰のものかなんて一目瞭然だ。
「姫っていうな!」
蹴りを入れて怒鳴ると、数人が祐樹を振り返った。
「あ、ほんとだ。大澤先輩のだ」
「どうしたの、それ」
「だぶだぶでかわいいじゃん」
「うるせーよ、借りたんだよ」
「学年、違うのに?」
「いや、あいつが勝手に貸しに来たっていうか、くれたっていうか」
「あいつだって、大澤先輩のこと」
「そんな親しいのか?」
「や、ちがう。ええと、だから…」
「大澤先輩がわざわざ昼休みに持って来てくれたんだよな」
「お気に入り宣言されたんだって?」
祐樹がしどろもどろに言い訳するより早く、昼休みの騒ぎのことは縦割りクラスのなかで噂話として駆け巡った。
注目されるのが嫌でそそくさと背を向けたが、そんなことをしたところで、練習のときにはネームを隠せないのだから無駄なことだった。
大澤とは違うチームなのが、唯一の救いだろうか。
大澤はというと、目線が合えばにこにこ笑って能天気に手を振ってくる始末だ。
手を振りかえす気にはなれず、かといって先輩を無視することもできず、祐樹は微妙な表情で中途半端な会釈を返した。
「ああ、あの子?」
高等部の数人が、こちらを見て納得したようにうなずいている。
練習が終わるころには、中等部一年の祐樹姫は大澤生徒会長のお気に入りとばっちり認定されていた。
縦割りクラスで認定されたということは、明日には学校中に知れ渡ってしまうということを意味する。
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