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第11話

 祐樹はじっと大澤をにらむ。その視線に気づいた大澤が、昼間とは打って変わってにやりと人の良くない笑みを浮かべた。 「すごいよねえ、大澤は」  隣に立っていた誰かが祐樹に向かって話しかけてきた。  胸に本多とネームが入っていて学年カラーで大澤と同じ高二とわかる。大澤と一緒にいるのをよく見かける生徒だ。たしか生徒会役員のひとりだが役職はわからない。 「昨日の今日で、もう目標達成だもんな」  意味がわからず、祐樹は本多を見上げる。 「目標達成?」 「そう。たった一度、中等部に足を運んで体操服を貸しただけで、これだもんな」  祐樹姫は大澤のお気に入りだって全校生徒に知らせたでしょ、と本多がおもしろがっているのが丸わかりの顔で笑う。  それが大澤の目標?   祐樹にしてみれば、明日には祐樹が大澤のお気に入りだと全校生徒に知れわたると思うと、ため息しか出てこない。 「何のことかわからないって顔だね、祐樹姫」  本多は意味深に祐樹を見ている。 「姫って呼ばないでください」  祐樹が主張すると、本多は笑いながら「ごめんごめん」とかるく謝った。ちっとも心がこもっていない。 「でも当分そう呼ばれることになると思うよ」 「どうしてですか?」 「きみが大澤王子のお気に入り認定されたから」  王子、とつぶやく祐樹に、本多がそうそうと合いの手をいれる。 「大澤のあだ名というか。きみの姫もそうでしょ、王子と姫なんて似合いのカップルじゃん」 「姫じゃないし、カップルでもないです」  祐樹の心底いやそうな顔を見て、本多はまあまあというように両手を挙げた。 「まあね。大澤もそういう趣味はないよ。でも助けてあげたいって思ったみたいだな」 「これが助け?」 「そう。近いうちに物がなくなるなんてことはされなくなるよ」  つまり大澤が教室まで来たのは祐樹のためだと言いたいらしい。  本当だろうか。そんなことで遠藤と木村がおとなしくなるんだろうか。  そもそもなぜ自分がターゲットになったかわからない祐樹には、大澤のお気に入りというだけでこの嫌がらせがおさまるのか理解できない。  祐樹にわかっているのは、大澤が油断ならない人物であり、自分はその彼に気に入られたらしいということだけだった。

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