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第12話
大澤がふたたび一年二組の教室を訪れたのは、体操服の押し貸しから三日後の昼休みのことだった。二度目の王子さまの訪問に、前回同様クラス中が静まり返り、祐樹は居心地悪く向かいに立つ大澤を見上げた。
「祐樹、元気だった?」
にっこりと王子さまスマイルを披露した大澤に、ぶすっと不機嫌な表情のまま祐樹は答える。
「昨日の放課後も縦割りクラスで会いましたよね」
「うん、それから今まで元気だった?」
祐樹のつれない返答にもまったくめげない。
「…はい」
警戒心もあらわな祐樹に大澤は楽しげに笑った。そういえば大澤の不機嫌な顔を見たことがないと思う。祐樹のまえではいつもにこにこと機嫌よさげだ。
「それで、何の用ですか?」
「え? なあに?」
「何か用事があったんじゃないですか?」
前回は体操服を渡された。その次の日の放課後には体操服は見つかり、ここ三日間、なくなった物はなかったが、大澤が何を言い出すかと祐樹は内心、緊張していた。
「ないよ、用事なんて。ただ祐樹の顔を見に来ただけだよ」
前回同様、固唾をのんで見守っていた教室内の空気がさらに固まった。中学一年生の子供たちに、大澤の落とす低く艶めいた声での爆弾発言は衝撃が大きかった。
「は?」
顔を見に来ただけ?
あまりに予想外のことを言われて、祐樹は思いっきり眉間にしわを寄せた。
「そういう顔もいいね」
どういう顔だよ。いまの不機嫌な顔がいいって? というか、一体この人は何がしたいんだ?
「そんな警戒しなくてもいいよ。もう知り合って一週間くらい経つんだし、もう少し打ち解けてくれてもいいのに」
「はあ…」
打ち解ける? お前と?と言いたいのを我慢して、あいまいな相づちをうつ。
「祐樹と親しくなりたいから、顔を見に来てるだけ。縦割りクラスでは練習が忙しくて、ろくに話もできないだろ?」
「……話って、どんな…?」
「んー、祐樹の好きな食べ物とか音楽とか趣味の話とか?」
本気だろうか? 中一の子供と高二のまあまあ大人とで、趣味の話が合うなどと祐樹でも思わない。本気でそんな話をしたいと思って、わざわざ中等部まで足を運んでいるとは信じられなかった。
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