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第13話

 思わずうろんな表情になる祐樹に、大澤はくすくす笑い出す。 「話なんかしなくても、そんな顔を見れるだけでも、ここまで来たかいがあるよ」  バカじゃないのかと思ったがさすがに口にはできず、もうなんと言ったらいいのかまったくわからないので、祐樹は口をつぐんだ。祐樹の困り果てた顔を見て、大澤は口調をあらためた。 「本当になにか仕掛けようとか思ってるわけじゃないよ。ただふつうに話ができる程度に親しくなりたいなと思ってるだけ」  そんなことをこんな衆人環視のなかでいわれても。祐樹は居心地悪く、目線をさまよわせる。 いやですって言ってもいいかな、先輩相手にさすがにまずいか。 「というわけで、放課後、一緒に帰ろうよ」 「え?」 「部活、入ってないんだよね? 今日は縦割りクラスもないし、昨日、用事ないって言ってたよね」 「あ、はい」 確かに昨日「明日の放課後、用事ある?」と訊かれた。てっきり縦割りクラスの練習をしたいからだと思って答えたのに、大澤はそういうつもりではなかったらしい。 「中等部も六時間目までだろ? 終わったら迎えに来るよ」 「いえ、あの」 「あ、校門前のほうがいい?」 「そういうことじゃなくて」  そこで予鈴が鳴った。 大澤は時計を見て、きっぱり告げた。 「じゃあ、迎えに来るから待ってて」  足早にさっそうと教室を出ていく姿を祐樹は呆然と見送った。  その日の放課後までに、祐樹姫が高等部の大澤王子にデートに誘われたという話は、中等部全体に知れ渡っていた。

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