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第19話
6年生になって急に決めた受験だったから、成績も通学もあまり無理をせず行けるところという基準で現在の学校に決めたので成績的には問題ない。でも受験を勧めた達樹としては祐樹の学校生活が気になるらしい。入学以来、なにかと気にかけてくれていた。
「なんか困ったことがあったら言えよ」
「うん、ありがとう」
そう返事しつつも嫌がらせのことは話せなかった。公立が心配だからと私立に入ったのに、そこでそんなことになっているとは言いたくなかった。
それに普段から仲がよかったならともかく、達樹にはみょうにライバル心を持たれて意地悪された時期もあったから、祐樹としては今のような兄らしい気遣いをしてくれる達樹にまだ慣れないのだ。
大澤のしてくれたことも話していない。クラスメイトに嫌がらせをされて助けられたなんて、なんだか恥ずかしい。
達樹は大澤が変な奴ではないかと心配したようだが、祐樹が話した感じではそんなことはないと思う。単純に親切心で助けてくれたようだ。
教室まで来て衆人環視のなか、あんなことを言ったので祐樹も内心かなり怪しんでいたが、ふたりで話してみれば大澤はごく普通で、祐樹に対して下心など持っていないことがわかった。たぶん、本当にいい人なのだ。
本人が言ったとおり「小さい子が困っていたから助けてあげたくなった」が正直な気持ちなのだろう。
そう思われるのも屈辱的ではあったが、高二の大澤から見れば祐樹なんてほんの子供だろうし、助けてもらったのは事実なのでしぶしぶ礼を言ったら、それも面白かったらしくげらげら笑われた。ほんとむかつく。
本人にそう告げたらさらに笑われたが、いやではないが苦手というのが、祐樹の大澤に対する正直な気持ちだった。
「ごはん、できたー?」
焼きそばの匂いにつられたのか、母親がキッチンに入ってきた。
大学二年の長男と専門学校一年の次男は食事当番の日以外はアルバイトで帰りが遅いので、基本的には夕食は両親と達樹と祐樹の四人だ。
バラエティ番組を見ながら、焼きそばとポテトサラダとみそ汁の夕食を食べる。
これでたぶん、収まるんだろうな、と思う。大澤のいうとおり、嫌がらせはとまるだろう。ついでに大澤とのつきあいも、これで終わりになるだろうと、その時の祐樹は思っていた。
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