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第21話

「…生け花ってこんな感じなんですか?」 「いや、生け花展なんて俺も初めて来たから。なんかすげーな」  来場者の多さにも正直言って驚いた。聞こえてきた会話から、最終日は早めに終了するということで、けっこう混んでいるのだとわかった。  女性が圧倒的に多いものの男性の姿もあり、来場者は目のまえの作品に目を奪われていて男ふたりが浮くとかいうことはなかった。おしゃべりも自由にしていて、美術館のように静かに観賞しなさいという雰囲気でもない。  祐樹と大澤も自由に歩き回って作品を見て回り、感想を言いあったり作品名(凡庸とか安眠とか)に驚いたりとなかなか楽しめた。  奥の一角にすこし照明を落とした小部屋があって、祐樹はそこに入って足をとめた。  やわらかく調整されたオレンジ色の光のなかで白いビル街が再現され、その中でいくつもの白い花がふわりと浮かんでいる。  近づいてよく見ると、白いビル街は柔らかそうな紙で作られていて、その下のほうに水盤が隠されており、花は祐樹の知らない作り物めいた薄い花びqらの大きな花だった。  ほとんどは隠されているのに、何本かだけ茎が見えるように配置されていて、全体的に白くぼんやりした世界のなかでその太い茎の緑だけがやけに力強く、くっきりと色鮮やかに目に飛び込んでくる。  ふしぎな世界観だった。  タイトルは「紙細工の街」。  出品者は東雲幸成(しののめこうせい)。 「気に入ってくれたの?」  じっと見入っていると後ろから声をかけられて、祐樹ははっと振り向いた。  すらりとした男が祐樹を見ていた。20代前半くらいで端正といってもいい顔にいたずらっぽい表情を浮かべていて親しみやすい雰囲気があった。  ざっくりした織りのブルーグレーのサマーセーターに紺のパンツがさわやかだ。サラリーマンには見えないし、大人の男性の威圧感のようなものもない。 

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