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第28話

 兄たちはかなりもてるし、上のふたりはしょっちゅう彼女が変わっているようだが、そうなりたいとは思わない。  何事も飽きっぽい三男の達樹に、意外なことに2年以上続いている彼女がいて、それを見ると長くつき合うのも悪くなさそうだった。  綾乃と自分はどれくらい続くのだろう?  夕食のあと、祐樹は英語の教科書を開いていた。英訳文であやふやなところがあり辞書を引こうとしたがいつもの場所にない。ため息をついて、立ち上がると隣りの部屋に行く。 「達樹、英和、持っていっただろ。返して」 「ああ、悪い。そこにある」  祐樹がノックしてから達樹の部屋に入ると、ベッドのうえで寝転がって雑誌を読んでいた達樹は行儀悪く机のうえを足で指した。 「ちゃんと返しといてよ」  英和辞典を取ると祐樹はさっさと出ようとしたが、机のうえに放置してあった物に目がとまる。女物のアクセサリーだった。ピアスや指輪、天然石のブレスレットなど。  なんとなくそろっと達樹を見ると、ばっちり目があってしまってうろたえる。 「何だよ」 「…べつに」  なにを言ってもまずい気がして壁のカレンダーに目をそらす。  9月は3匹の白い子犬がボールにじゃれている写真。達樹の趣味ではなく、母親が張っていた。そういえば来週末がもう学園祭だ。  祐樹の気持ちが定まらないうちに達樹のほうから口を開いた。 「そういうの返してくるってどういう気持ちなんだろうな」  達樹は淡々とした口調でいい、机のうえに目をやった。  祐樹はしかたなく訊いた。 「別れたの?」  達樹は話を聞いてほしいのかもしれないと思ったのだ。  用事のありそうもない辞書を持っていくくらいだ。祐樹を部屋に呼びたかったのだろう。意地っ張りな達樹がむかしから使う手だった。 「うん。2日前に会って。それ返しとくって渡されたけど、返されてもな。いらないなら捨てればいいのにな」 「なんで別れちゃったの?」 「んー、気持ちが冷めたんだって。最近ドキドキしないし、ときめきたいけど、もう一緒にいてもときめかないからって」  どういう意味だろう?

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