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第30話

「彼氏っていうか、弟みたいに思われてる気がする」 「まあなあ。3つ上だろ。大学1年と4年だとそうでもないのに、高1と大学1年だとなんか差が大きい感じするよな」  大学生と高校生の差はかくも大きい。 「達樹は彼女に欲望とか感じた?」 「は? 欲望?」  達樹が眉を寄せて祐樹を見る。 「友達が言うんだ、欲望あらわに迫ったらダメだって。でもおれ、よくわからないんだよね。どうなることが欲望あらわ?」  弟のきれいに整った顔で欲望あらわなどと言われて、達樹は困惑した顔でこめかみを押さえた。一体なにを言い出すんだか。というか祐樹の友達は何をこいつに吹き込んでるんだ。 「…迫りたいのか、彼女に」 「それもよくわからない。何かしたいともあんまり思わない」 「高1の健康な男子としてはちょっと淡白なんじゃねーの、それは」  達樹は祐樹のほっそりした姿を眺めた。小さいころからしょっちゅう女の子と間違われていた弟は、ここ1年くらいで急に背が伸びて、かろうじて女の子には見えなくなった。  私服によってはまだ背の高いスリムな女子でも通りそうだが、優しげで上品な顔に反して、男兄弟のなかで育った末っ子は気が強くて甘ったれだ。  会ったことはないが、年上の彼女はそういうところをくすぐられているんだろうと思っている。 「問題あると思う?」 「ないんじゃね? 彼女から不満でも言われてる?」 「ううん。祐樹はかわいいねって」  やっぱり甘やかされているらしい。 「よくわからないなら彼女の望むようにしてやればいいんじゃないの。年下の彼氏でいいって思ってる子なんだろ。祐樹は彼氏としては相当頼りないだろうに、不満を言われるわけでもないんなら」 「うん、そうかな」  身内の容赦ない言葉に、祐樹は反発するでもなく納得したようだ。  初めての恋愛に戸惑う弟を、ベッドに座ったまま達樹は複雑な気持ちで見上げた。かわいかった祐樹がもう彼女持ちかと、なんだか感慨深いものがある。ほとんど母親のような心境だった。 「やっぱりおれって、頼りない?」 「そりゃ、どう見ても頼りがいがあるタイプじゃないだろ」 「まあそうだよね…」  手に持った辞書を見て、課題が途中だったことを思い出す。 「じゃ、おれ戻るね」  くだらないことばかり考えていても仕方ない。頭を切り替えて、祐樹は課題に集中することにした。高校生にはやるべきことがたくさんあるのだ。

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