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第36話
「流派は違っても、習ってる人はやっぱり花の見せ方がじょうずだね」
いつのまにか東雲が後ろに来ていて、綾乃の作品を眺めていた。
「ほんとですか、ありがとうございます」
綾乃はぱっと赤くなった。本当にうれしそうだ。ファンだと言ったのはお世辞ではなかったらしい。
いくつか改善点を指摘され、東雲がちょいちょいと手直しすると、また全体の雰囲気が変わったのが祐樹にもわかった。
「真 の高さに気をつけて。せっかくいい枝ぶりだから、このラインをうまく見せるようにするといい。足元をもう少し寄せて、水際に注意してね」
綾乃ははいとため息のようなものをつきながら話を聞いている。
東雲がメインの花をほんの数センチ短く切って、すこし中央に寄せただけでひき締まった感じが出た。
生け花の指導を目にしたのが初めてなので、祐樹はふしぎなものを見ている気分だった。
「先生、お願いします」
またほかの生徒から声がかかって、東雲がそちらに向かった。
教室ではお互い活けた作品を見せ合うものらしく、みんながそちらに寄って東雲の話を聞いている。
同じ花材を使っていても枝や花の咲き具合などそれぞれ違うし、使う花器によってもひとりひとり違ったものになるのがおもしろい、らしい。
楽しそうな笑い声も起きて、東雲のやわらかな張りのある声が室内に響く。
一方的な指導になるわけでもなく、生徒からの意見を出し合ってもいいようで、この長さはどうとか言い合っている。
「もう少し後ろに倒してみようか、もうちょっと枝をたわめてみて」
「あ、そっちのほうが全体に華やかな感じ出ますね」
「手前にもってきたらまた雰囲気変わるよ」
「どっちがいいでしょう。うーん、好みによるのかなあ」
「こっちの枝ぶりのほうが合うんじゃないですか?」
「ああ、いいね。その枝の曲り具合が生かせるといいな、いい枝だね」
「たわめ方次第でがらっと変わるからおもしろいですよね」
そんな会話が次々と続く。
彼女たちがなにを見てどこがおもしろいと言っているのか祐樹にはさっぱりわからなかった。日本語なのに異星人たちの会話を聞いているようだ。
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