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第7章 誤解と想像
12月に入ってショッピングセンターはどこもかしこもクリスマス仕様になっている。
赤や緑や金がメインのディスプレイはなんだか気分をうきうきさせる力を持っていて、街全体が華やかで楽しげだ。
ウィンドウに映る自分を見ながら、祐樹はちゃんと楽しそうに見えるだろうかと無意識のうちにチェックした。ここ最近の癖になっているが祐樹自身は気づいていない。
「あれ? 祐樹姫じゃん?」
久しぶりの呼ばれ方に思わずふり向いた。どこかで見た顔が祐樹を認めて親しげに笑いかけた。誰だったっけ? 見覚えはあるが名前が出てこない。
こんな雰囲気じゃない彼を知っているはずだ。どこで会ったんだろう? 相手は祐樹の疑問を表情で読み取ったらしい。
「本多だよ、大澤と一緒に生徒会やってた。忘れちゃった?」
「ああ、はい。覚えてます。本多先輩、お久しぶりです」
卒業以来、初めて会う。ということはほぼ2年ぶりだった。
とくに親しかったわけではないが、大澤と仲が良かったから祐樹と顔を合せる機会はけっこうあった。週に一度の「大澤王子の祐樹姫詣で」にも何度かついてきたはずだ。
でも会話したことはほとんどなかった。あのころ祐樹は大澤が苦手だったし、その周辺の人間にも同じような態度で、自分から先輩になついていくことはなかった。
本多から話しかけられたことは数回あったが、役職上、そういえばその場にいたな、という感じだったのだ。
私服姿を初めて見たが、高校時代とはずいぶんイメージが違っていた。髪の色がすこし明るくなって、きれいな濃い紫のフレームのメガネをかけている。着ているこげ茶のコートもよく似合っていた。
派手さはないが気を遣っているのがわかる。そういうタイプだっただろうか。いや、大学生になって2年も経つのだから、これくらいの変化は当たり前かもしれない。
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