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第44話

 事前になにも知らされていなかったし、その場の勢いというか周りの盛り上がりに断りきれず、まあいいかと仕方なくちょんと触れただけだ。嫌だとか思うこともなく、とくに何の感想もなかった。  それでも普段そっけない態度の祐樹姫からのキスに周りは盛り上がった。  それにほかの部活の先輩後輩のほうがもっといろいろ過激なことをやっていたので、祐樹はすっかりそのイベントのことは忘れていた。あれがそんな誤解を招くとは思いもよらなかった。 「まあ勘違いしたお詫びというか、久しぶりだしここはおごるから。大澤によろしくな」  よろしくと言われてもと思ったが、ここで断るのもおかしいので、おとなしくはいと頷いておく。  またな、と片手を上げて、本多はショッピングセンターの人ごみに紛れて行った。見送った祐樹はふうとため息をつく。  そんなふうに思われていたなんて想像もしていなかった。  たしかにカップルっぽい扱いは受けていたが、大澤にはずっと近くの女子高の彼女がいたので、それは単なるからかいというか校内だけで通じるネタという感じだったのだ。  大澤の近くにいた本多にそんなふうに思われていたのは本当に意外で、だったらほかの人間はもっとそう思っていたのかとちょっと不安になった。  まあ、今ごろそんなことを考えても仕方ないか。大澤が卒業して2年も経っている。  たとえそういう誤解があったとしても、いま祐樹が年上の彼女とつき合っているということは、高等部の人間は全員知っているんだし。  祐樹に彼女ができたというのはそれだけセンセーショナルな話題だったのだ。  それにしても、大澤先輩とおれがまじでカップルって、いくら男子校でもどんな冗談なんだか。男同士で変じゃないか?  まあ大澤先輩くらいかっこよかったらそうでもないか? べつにキスも嫌じゃなかったし。唇でも平気じゃないか…っておれ、なにを考えてんの?  でも頭のなかにふっと浮かんだ大澤とのキスは、ふしぎに祐樹をどきっとさせた。綾乃とのキスよりもなんだかしっくりくる気がしたのだ。いや、そんなはずはない。  祐樹はかるく頭をふって、あわててその想像を追い出した。

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