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第49話
「祐樹、腹減ってない? 時間なくて昼食べそびれて、なんか食いたいんだよな。つき合えよ」
「はい」
そっけない返事を気にすることもない。昼には遅すぎる時間だが、大澤はしっかり食べたいようだ。
「何がいい? おごってやるよ」
「じゃあ、天丼がいいです」
「お、いいね」
祐樹が選んだのはカウンターだけの天丼専門店だ。
安くて早くてボリュームがある。食券を買って並んでカウンターに座った。水はセルフだ。男同士だとこういうところが楽だ。
綾乃がいたら、さすがにこういう店は選べない。
本当はこういう丼ものとかカレーとかがっつりした食べ物が好きだけれど、デートのときはカフェでランチとかイタリアンを分け合ったりだ。
エビ天丼をおそろしい速さでかきこんでもりもりと食べ、ごくごくと水を飲んでいる元王子は、それでもやはりかっこよかった。
気づけば大澤の水を飲む喉元に目が引き寄せられていて、祐樹ははっと目線をそらした。なんだか心臓がとくとくする気がして、何かしゃべろうと話題を探して頭のなかをあちこちめぐる。
「あ、そういえば、すこし前、本多先輩に会いましたよ」
「へえ、本多、懐かしいな。あいつ元気にしてた?」
「はい。連絡とってないんですか?」
「んー、この半年くらい会ってないかもな。どこで会ったんだ?」
「ショッピングセンターで買い物してるときに声かけられて」
祐樹はかいつまんで本多との会話、というか誤解を教えた。聞いた大澤は目を丸くして、それから「バカだなー、あいつ」と爆笑した。
その反応を見て、ほらやっぱり誤解だったと祐樹も一緒に笑った。
けれども、ほんの少しがっかりしている自分を見つけて、祐樹はそんな気持ちに違和感を覚える。
どうして、何にがっかりしているんだろう?
自分の気持ちなのに、もやもやとした霧がかかっているようにはっきりつかめなくて、祐樹はもどかしく思う。
いったい何に引っかかっているんだろう。最近、こういうことが多い。
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