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第51話
「あのね、突然なんだけど、ちょっと手伝ってもらえないかな? 急に手伝いがふたりも来られなくなったって連絡があって手が足りなくて困ってるんだ。バイト代、はずむから」
東雲の話し方はやはりきれいな響きで 、口調も焦りなど感じさせない。眉間をわずかに寄せた表情だけが、本心を垣間見せているようだ。
でもいまの説明では、何をさせたいのかわからない。
「いいですけど、おれ、何をしたらいいんですか?」
東雲の説明はこうだった。今から正月用のディスプレイの花を活けるので、現場で雑用をしてほしい、手伝いがふたりインフルエンザで来られなくなったのだと言う。
手伝いといっても教室に通っている人らしいから、自分のようなチューリップとタンポポしかわからない素人でいいのかと心配になったが、言うとおりに動いてくれたらいいから、と東雲が頭を下げるので引き受けた。
大人の男性にお願いされるなんて初めてのことで、あわててしまう。
「ほんとに急なお願いでごめんね。でも助かったよ。男の子のほうが力もあるし、祐樹くんは背が高いし」
花を活けるのに力や背の高さが必要なんだろうか?
でも質問する間もなく、東雲のすぐ横に車が停まった。生花店のバンだ。降りてきた運転手が恐縮して東雲に頭を下げている。
「すいません、道混んでて遅くなっちゃって」
「仕方ないよ、年末だからね。さ、急いで入れて」
東雲の指示でたくさんの木や花やそれ以外のものも搬入口へと運ばれていく。
「祐樹くん、こっち」
東雲においでおいでと手招きされて、業者と一緒にデパートの中へ入った。
8階の正月用の特設会場へ通される。テーブルやパーテーションなどの設営も同時にしているらしく、たくさんの人が色々な資材をもってうろうろしている。
その一角に大きな防水用のブルーシートが敷かれていた。生花店のスタッフがバケツごと車からおろした花や枝を搬入してくる。
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