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第53話

 数人のスタッフに花器の位置や枝の角度、照明の当て方までさくさくと指示を出していく。かと思えば、バケツいっぱいの花や枝を手品のような速さで活けてしまい、鮮やかな手際で自分の世界を惜しげもなく披露する。  活けた花はまだほとんどが蕾なのに、これが咲いたらどんなに華やかだろうとわくわくした。  こんな世界を見たことがなくて、祐樹はすうっと意識が引き寄せられるのを感じた。何もなかった空間に、東雲の手で新しい世界が創りあげられていく。  すごい、と素直に思った。 「祐樹くん、細身に見えるのにけっこう力あるんだね。しっかり筋肉がついてるし」  あれこれ言いつけられるままに動いていたら、東雲が感心したようにシャツをまくった祐樹の腕を見ていた。 「ずっと空手やってたんで、わりと筋力はあるかもしれません」 「ああ、そうなんだ。体のラインがきれいだもんね。腰のとことか、ぐっとくるよね」  そんなことを面と向かって褒められたことはなくて、すこし動揺してしまう。思わず赤面すると、東雲はいたずらが成功したみたいにうれしそうに笑った。  初めて見た顔に、どきっと心臓が跳ねてしまう。 「あ、ごめんね。子供相手に言うことじゃなかったね」  子供といわれてちょっとカチンときて、つい突っかかるように質問した。 「そういう東雲さんはいくつなんですか?」 「僕? 26…もうすぐ27歳だよ」  10も年上なのか。そうは見えなかったが、27歳と聞けばけっこうな大人で、子供扱いも仕方ない気になってくる。  そうか、東雲さんから見たら子供だよな。となぜか落ち込むのがふしぎだった。もっと対等に見てもらいたかったんだろうか? 自分の気持ちがよくわからない。 「祐樹くんは高校何年生?」 「1年です」 「ってことは16か。若いっていいね」 「えー、東雲先生からそんな言葉を聞くなんてショックです」  女性スタッフのあげた冗談めいた悲鳴に、東雲はおっとり笑って「だって16歳なら徹夜だって平気でしょ」と受け流した。そのあとに続いた会話から、最近徹夜で設営をした現場があったらしいとわかる。

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