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第10章 自覚と沈黙

 綾乃は実家に帰省したので、年末年始は会えないままだった。  年明けの3日、祐樹は友達と会うと言って家をでて、ひとりでデパートに行った。年末に手伝ったあの会場がどんなふうになったのか見てみたかったのだ。  初めて来た正月のデパートの人の多さにびっくりしながら、あのとき手伝った場所を見て回った。年末にはほとんど蕾だった花がきれいに咲いていて、正月にふさわしく豪華で華やかな雰囲気の空間になっていた。  咲いたらこうなるのを計算していたのかと、あらためて驚かされた。  1月5日に綾乃に会って遅い初詣に行き、おみくじを引いた。綾乃は小吉、祐樹は中吉で、なんか中途半端だねと笑いあった。  綾乃の恋愛は相手に浮気心あり、祐樹のほうは辛抱すればやがて吉とあって、それも微妙なかんじだった。  おれに浮気心? 恋愛感情もよくわからないのに?  東雲のことは綾乃には話さなかった。年末の突然のアルバイトのことも、3日にひとりでその花を見にいったことも。  なぜ話さないのか、自分でもよくわからなかった。  東雲の生花教室には綾乃と行ったし、その後も綾乃はお稽古に行ったと祐樹に話している。共通の話題だし、話せばきっと楽しく聞いてくれるとわかっているのに、なぜか黙っておきたい気持ちになった。  祐樹は1月末の実力テストの勉強や、2月末に行われる英語のスピーチコンテストの学校代表に選ばれたのでその準備があって忙しかった。  綾乃のほうもレポート提出や学年末試験のあれこれでばたばたしていて、ほとんど会えないまま1月は過ぎた。  会えなくてさびしくねーの?と河野には突っ込まれたが、スピーチコンテストの準備は実際かなり忙しくて、そんなことを考える余裕はなかった。  クリスマスに感じた違和感は心の隅に居座ったままで、綾乃に会うのがすこし億劫な気もしていた。楽しいのは確かだけれど、友達と綾乃と何が違うんだろう。  もっと会いたいとか触れ合いたいとか、彼女という存在に対する特別な気持ちがわいてこないことに、祐樹は気づき始めていた。  ケンカを繰り返しても彼女と過ごすのが楽しくて仕方ないらしい河野といると、ますますそのことに気づかされる。  根本的におれって恋愛に向いてない?

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