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第61話
以前から同級生のなにげない仕草や体に目が引き寄せられることがあった。最初は意味がわかっていなかった。
自分が小さくて女の子みたいだから、あんなふうになりたいと憧れて見てしまうのだと思っていた。
背が伸びてからも高等部に入ってからも、そういうことはよくあった。癖になっているのだと思って気にも止めていなかった。
男ばかりの四人兄弟のなかでがさつに育っていたし、中学からは女子の目が届かない男子校でのびのび過ごしてきたから、恋愛にはほとんど興味が向かなくてもまったく不都合はなかった。
綾乃に告白されて成り行きのようにつき合うことになって初めて、そういえば初恋も記憶にないと気づいたありさまだった。でもそれを深く考えたりすることもなく過ごしていた。
欲望もときめきもわからないが、綾乃と一緒にいるのは楽しかった。
年上の女性からかわいいねと弟扱いされていても嫌な気分ではなかったし、彼氏としては頼りない自分を綾乃は責めたりしない。
でも河野はそんなんじゃダメだという。
女子に全部リードされっぱなしはよくないと、祐樹の受け身な恋愛をふしぎに思っているようだ。でも綾乃を相手に、ぐいぐいと何かしたいと思えない。
恋愛は楽しいものだと思っていた。なのに祐樹は、違和感を感じてばかりだ。
目を背けていたが、本当はその理由にもう気づいている。でも認めるのは怖かった。兄たちはかなりもてて彼女がいるのだから、自分もそうなると勝手に思い込んでいた。
具体的に誰かを好きと思うわけではないから、そうじゃないと思いたい気持ちもある。
綾乃が好きだと思っていたがそれは錯覚で、ほかの子ならもっとのめり込むのだろうか。でも好みの女子すら思いつかないのに、どんな女子にのめり込むんだろう?
ときめきもドキドキもわからないのに、なにを基準につき合えばいいのか、祐樹は混乱していた。
「よくわからないんです、自分のことも、相手のことも」
長い沈黙のすえにようやく言えたのは、そんな言葉だった。
大澤は何も言わず黙って車を走らせたが、その沈黙はいまの祐樹には闇のなかにいるように思えた。
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